真っ暗闇。

地面からはゆらゆらと透明な炎が登っている。
私はそこに立っていた。

顔を上げれば、1人の少女が立っている。


「広菜」


呼べば、彼女はこちらを振り向いた。
顔や姿がはっきりとこの目に映っていた。

何度も彼女の名前を呼ぶんで彼女の元へ駆け出した。
視界の先で広菜は笑っている。

伸ばした手を掴んで、引き寄せる。

やっと、掴めた。

広菜を強く抱きしめる。
よかった、ちゃんとあったかい。


「忘れてごめん、助けられなくてごめん、夢で何度も言ってくれてたのに、逃げて、ごめん」


広菜は、私の耳元で小さく笑った。


「…助けてくれているよ、ずっと」

「っ」

「私こそ、途中で逃げ出してごめんね、一緒に戦ってくれるって言ったのに…っ、自分の弱さのせいで、ごめんね」


首を強く横に振った。
お願い、まだ行かないで、ずっとそばにいて、どうか、お願い。まだ、まだ。


「広菜、もう、私ずっとこの陽炎の中で広菜と一緒にいたいよ」


本音が溢れた。
現実から目を背けて、みたいものだけをみて、大好きな親友がそばにいて、もうそれでよかった。

このままで、いい。

広菜がゆっくりと私の体を離して、手のひらを私の頬に添える。
首を横に振った。


「だめだよ、まだ、やるべきこと残ってるでしょ」

「嫌だよ、一緒にいてよ、もう失うのこわいよ」

「萌香」

「いやだよ!いやだ!広菜、お願い、消えないで」


もう一度強く広菜を抱きしめる。

広菜は「大丈夫だから」と泣いている私の背中を撫でた。


「萌香」

「っ、」


「1人じゃないよ、一緒に戦ってる。泣いてないで、前を向いて」


肩に手を添えられて、なかなか離れない私を引き剥がすように距離をとった広菜。
真っ直ぐ、迷いのない声だった。

そっか、広菜は、そういう人だ。






「萌香は、何も失わない」