目を見開く。

息が荒くなった。

どういうこと、なんで、私が。

私は自身が正義だと、信じて疑わなかったからこそこの文を見ても何も感じなかったのだろうか。

私は、何を考えて。


「…考えたくないことばかり考える」


紙を無造作にポケットに入れ、その手を出さないまま私を睨みつけている泉さん。


「お前は、カヨラ側の人間で、記憶を失ったなんて嘘で」


違う、と首を横に振る。
声を出そうにも詰まってうまく言葉にならなかった。

泉さんがポケットを揺らしてこちらにまた近づく。
私は後ずさりをした。

復讐。その言葉が脳裏をよぎった。

サラに向かっていく私は、きっと今の泉さんと同じ顔をしていた。


「俺の妹を殺して、犯行文を送ってきて、善の顔をして俺に協力をするフリをした、愉快犯かも」


体が地面に倒れた。力が入らない。

泉さんはしゃがんで、私をじっと見つめる。


「違います!何かの間違い…っ!」


泉さんが取り出したナイフが私の腕をかすめた。
あつく、ひりつくような痛さがはしった。

片手で腕を抑える。
涙を拭う余裕なんてなかった。首を何度も横に振る。夢だと、これは現実じゃないと思いたかった。

腕の痛さが嘲笑うようにこれは現実だと言っている。


「ひっ、久松先生のカルテに手紙が入ってました!それは1週間前の手紙です!実里さんは生きてます!」


お願い、信じて泉さん。


「…書いてた日付なんて、どうとでもなるだろ、久松とグルになってれば、死ぬ前の実里を脅して書かせることだってできるはずだ」


私の首元に突きつけられるナイフ。
違う、そんなこと、絶対にしない。

ごくりと唾を飲み込む。


「…泉さんの、勘がそう言っているんですか」


「っ…」


泉さんは、言葉を詰まらせて感情を抑え込むように唇を噛んだ。
そしてナイフを持っている手に力をこめる。


「私は、カヨラ側の人間じゃない、お願い信じて泉さん」


無情にも私の声は届かなかった。
泉さんの瞳から涙が溢れ、頬を伝っていく。


「…もう、お前の手は借りない」


振り上げられたナイフ。
逃げられないことを悟って私は目を瞑った。

襲いかかる『死』という恐怖。私は言い聞かせた。

でも、広菜に会えるかもしれない。

きっと何もできなかった私を広菜は抱きしめてはくれないんだろうな。

そう思った。


「ナイフと拳銃って、どっちが勝つかな」


そんな声が聞こえたと同時に、ゴツという鈍い音が聞こえる。
目を開けた先にいたのは、


「は、原島、先輩」


拳銃をもった原島先輩だった。
その拳銃は撃たれることなく、泉さんの頭にぶつけられたようで泉さんが地面に倒れた。
唸るように地面に転がったナイフに手を伸ばした泉さん。

駆け寄ろうと伸ばした手は原島先輩によって掴まれた。


「次こそ殺されるよ、走ろう」



そう言って、原島先輩が私の手を引いて駆け出した。
何が起こっているのか状況は追いつかない。

泉さんが私を殺そうとして、それを助けてくれたのは原島先輩で、

犯行文をかいたのは私。


ーーーカヨラ側の人間?


なくなった記憶の私は、いったい何をしようとしていたの。