カウンセリング終え、私は家に向かって歩き出した。
歩きながら必死に頭の中で渦巻く真実を整理しはじめる。
失踪者とカヨラがつながるなら、満尾広菜さんとカヨラもつながっているという可能性は…?
私の思い出せない友達は、満尾広菜さんで彼女はお金が必要で売春をしていたかもしれない。そして、学校を退学後、失踪して亡くなった。
私は、満尾広菜さんに何かしらが起こったあと久松先生のところに行っている。友達がいなくなって気を病んだのだろうか。
その記憶もすべてなくなっているし、失踪後久松先生と会った時、初対面のようなあいさつをした。
久松先生がそうした理由はなんなのだろう。
久松先生への疑心がはじめて生まれる。
なぜすぐに聞けなかったんだろう。結局私は事実を知ることから逃げているのかもしれない。
「…はあ」
思わずため息をついた。
何も、つかめない。本当は思い出したいと願うようになった。願っても願っても、私は何も思い出せない。
私は、いつまでこうやって調べていればいいんだろう。真実が分かったとして、何か解決はするんだろうか。
私は、真実で何かを失わないのかな。
そこまで考えて、我に返った。
振り払うように首を横にふる。
どちらにしても、中心にいるのがカヨラという団体だとしたら、次話を聞くのは真由だ。あの写真は、真由が少なからずカヨラという宗教団体のことを知っているということの証拠になる。
真由とカヨラの関係、なくなった記憶の関係まで聞き出せれば。
スマホを開けば、それと同時に泉さんからの着信が入った。
「もしもし」
「今から時間あるか」
「母に真っ直ぐ帰ると伝えてます」
「まっすぐ帰れないって伝えろよ」
「私の失踪がよほどのトラウマなのか、あまりそういうの許してくれないんですが」
「いいから来いって」
つくづく自分勝手な人だ。
この人がいなければ、私は今こんなことになっていない。
不安になれば、泉さんのせいにしてしまう。無理矢理にでも断れば逃げられたことなのに、自らこの渦に巻き込まれた。
自分のせいだって、本当は分かっていた。
「分かりました」
私って、何なのだろう。
母に連絡をすれば、渋々許可がでた。帰ってから小言は言われるだろう、覚悟していないと。
私は、泉さんから指示された場所へとやってきた。
少し古めのアパートだった。
おそらく泉さんの家だろう。
泉さんとはいえ、男の家に入るのは少し気が引ける。
インターホンを押す手前で動きを止めた。
いつものファミレスじゃだめなのかな。
そう思った矢先、玄関の戸が空いた。
「何やってんだよ、おせーから迎えにいこうかと思ったわ」
私を視界に入れて少し驚いた様子でそう言った泉さんに「すみません」と反射的に謝る。
「まあ入れや」
戸を幾分か大きく開いた泉さん。少し躊躇していると、泉さんの後ろから「おっ」と声がした。
「すぐる、噂の女子高生来たのか」
そう言って顔を覗かせたのは、スーツ姿の男性だった。ますます肩を上げた私に、その人は少し慌てたように私に近づいた。
「そりゃびびるよな、ごめんごめん俺、一応警察だから」
と、胸ポケットから手帳を出して私に見せる。
『高橋 翔』と書かれていた。
「すぐるとは幼馴染でさ、今行方不明の妹の実里ちゃんとも知り合いなんだよ」
そう言って、手帳をしまいながら私に笑いかける。
この人も、取り繕うのが上手な人かもしれない。まあ、刑事さんなら本心を表に出すなんてことしないだろうけど。
「君が心配なら、玄関の戸全開で話を進めてもいいと思うけど、ね、すぐる」
「…ああ」
私は首を横に振った。
おそらく、私に気を遣っているんだろう。
一歩、前に踏み出す。
「大丈夫です、お邪魔します」