異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 頭上の兜が目元を覆い顔は良く見えないが、薄く形の良い唇は、その問いに答えるように軽く弧を描く。勇者は首に巻いたスカーフを鼻の上まで上げると、くぐもった声を出した。
「もう大丈夫だ」
 低い声。しかし、この状況にも揺るがない自信のある落ち着き払った声だ。
 たった一言、それだけ口にすると勇者は茶色い髪を靡かせながら再びドラゴンと対峙する。同時に、国境の方からも咆哮が聞こえた。距離はあるが目の前のドラゴンのそれと同種だ。
「ジーク、もしかして、ドラゴンは二匹いるの?」
「まさかそんなことは。いや、しかしあの声は間違いない」
「そこの騎士、国境警備は?」
 振り返らずに聞こえる勇者のくぐもった声。
 伝説の勇者に話しかけられ、高揚と緊張で震える声でジークはドイルとベテラン騎士がいることを伝えた。
「あいつがいるなら問題ない」
 絶対的な信頼。
 勇者は前動作なく高く跳躍し、聖剣を頭上から振り落ろす。再び巻き起こる突風、それを受けるようにドラゴンも翼をバサっと揺らした。
 風同時がぶつかり合い中、聖剣はそれでも切っ先を真っ直ぐにドラゴンの肩先へと向かう。
 ギギャー
 叫び声とともに右翼がザクッと切り裂かれた。
 硬い鱗、筋肉、骨、全てを一度に切り裂く鈍い音、まっすぐな閃光が走り、ドサリと翼が地面に落ちちる。地響きと同時にその振動でミオの身体は十センチ跳ね上がった。
 バランスを崩しながらも、ドラゴンは大きな鉤爪のついた脚で勇者を攻撃する。しかし、勇者は素早い動きでそれらを交わし、時には剣ではじき飛ばしさえした。
「ミオ、下がった方がいい。ベニーを頼む。俺はサザリンを」 
「分かった、ベニー、私に掴まって」
 ジークは痛みで動けないサザリンを抱き抱え、ミオも首にしがみついてきたベニーを抱え込むとそのまま店の方へと走る。数十メートル走ったところで、背後からゴオォォっという雄叫びとともに熱風を感じ、振り返ればドラゴンが再び青い炎を吐き出していた。
 先程までのがお遊びだったのかと思うほどの巨大な青い炎の塊。
 充分距離はあるはずなのに肌がチリチリ焼ける。
 炎は容赦なく勇者に覆いかぶさり、その姿をミオ達の視界から消した。
 悲鳴にならない声がミオの口から漏れ、目の前が燃え盛る青でいっぱいになったその時、一筋の閃光が炎の中から現れた。