異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 周りにある空気が熱風となり炎より先に肌を焦がす。
 青々とした炎が迫る中、ジークは三人を抱えるように飛び避けた。
 しかし炎の触手はまるで地面を這うように容赦なく向かってくる。
「ベニー、こっちに!!」
 座り込んでしまったベニーにサザリンが手を伸ばすも、長い栗色の髪が炎に巻き込まれてしまった。
「きゃあぁぁ!!」
 ボワっと燃え上がる髪、ジークは素早く外套を脱ぎ叩きつけるようにして炎を塞ぐ。ミオはリュックから水筒を取り出し炎にぶちまけた。
 肌が、髪が焼け焦げる匂いが漂う。
 サザリンの髪は肩下まで焦げ散り、右頬が真っ赤に腫れ爛れた。
 焼けていない左側の可愛らしい造形と白い肌、その対比が火傷のひどさをより顕著にする。
 それなのに、その痛々しい顔でサザリンは「逃げて」と何度も呟く。
「そんなことできない。一緒に逃げよう」
「ミオ、ベニーを。俺は彼女を背負う」
 ドラゴンは、まるで猫がネズミをいたぶるかのように頭上から人間達を見下ろしている。
 続けて炎を吐くことができるだろうに、翼で風を起こし、咆哮を上げる様は、まるで逃げ惑う人間を弄んでいるかのようだ。
 ミオとジークは風と炎を避け必死に逃げる。
 しかし次第にドラゴンはそれも飽きたようで。
 ふぅぅっと大きく息を吸い込む気配がした。
(巨大な炎を吹く!)
 本能的にそう思ったのはミオだけでない。ジークはサザリンを下ろすと、次の瞬間には剣を構え飛び出した。どう考えても捨て身の攻撃にしか見えないそれに、ミオはもはや声すら出せない。
 さっきよりも大きな炎がドラゴンの口から放たれるのを絶望の淵で、ただ眺めた。

 それは突風だった。

 後方から吹き抜けた風はミオの髪をかき揚げ、浮遊感すら感じさせる。
 前屈みに倒れながら見上げた視線の先には、傷だらけの甲冑をまとった剣士が一人。
 軽々とミオの頭上を飛び越えた剣士はドラゴンに向け西洋長剣(ソード)を振り切る。その振りから起こった風が炎を霧散させ、ドラゴンの胸部を一撃が襲った。
 剣から繰り出された風に吹きとばされたのか、攻撃を避けるためか、ドラゴンは数十メートル後方に下がるも、すぐに大きな翼を一振り、臨戦態勢に戻った。
「……あれは聖剣、もしかして、勇者リーガドイズ?」
 ジークの声に勇者が振り返る。