川の流れは緩やかで、サザリンとミオは足首より深い場所に行かないよう声をかけながら見守ることに。
(あー、なんか長閑だな。このままごろりと横になりたい)
心配事が消えたわけではないけれど、悩んだからと言って解決するわけではない。
サザリンに年を聞けば十六歳、ジークと同じ年齢だった。
(ジークにしてもサザリンにしても年齢差があるのに話が意外と合うのよね)
自分の異世界年齢を知らないミオはそう思う。
流行の食べ物や店の話で盛り上がっていると、少し向こうの低木ががさりと揺れた。風かと思ったけれど、どうやら揺れ方が違う。ガサガサと左右に小刻みに揺れる様は、そこに何かが隠れているような。
(そういえばこの森で動物を見たことはなかったわ)
沢山の実がなり、水があり、枯れ葉が重なってできた柔らかな土や大木は動物達の寝ぐらにピッタリな気がする。
ガサガサ、ガサガサ。
次第に大きくなるその揺れに、本能的に足を川から出して立ち上がった。ミオのその反応に水と戯れていたベニーも低木を見る。
一拍、サザリンの顔色がさっと変わった。
「ベニー、こっちへ!!」
駆け寄ってきたベニーを抱き上げ、濡れた足のまま靴を履く。顔は青ざめそれでも低木から目を離さない。
「ミオさん、ゆっくり後退りをして」
震える声。それと同時に、まるで言葉を理解し逃さんとばかりに大きな茶色い毛の塊が低木の向こうから飛び出てきた。
長い耳、短い手足、丸い体。
普通なら可愛いと表現されるであろうそれは、しかしミオが両手を広げるほどの大きさがある。丸くつぶらなはずの赤い瞳は猛々しく、口元からはグルル呻き声とともに唾液か垂れる。そして頭には大きな角。
「……もしかして一角兎?」
かつて食べた真っ赤な肉が脳裏によぎる。生々しい、血のような赤。ぞくりと身体中が泡立つ。
「背中を向けないで、ゆっくりと遠ざかりましょう」
サザリンが震える手で、ミオの袖を引っ張る。ベニーに至っては今にも泣きそうな顔でサザリンにしがみ付く。
サザリンとて一角兎と対峙するなど初めて。ただ、数年前まで魔物の恐怖と背中合わせに生きてきたので、ミオより知識はある。しかし当然ながらやりあう方法など知らない。
ゆっくり石から下りる。少し間合いが取れたと思ったのに、一角兎は短い足であっという間に詰め寄ってきた。目の前に迫る初めての死の恐怖。
(あー、なんか長閑だな。このままごろりと横になりたい)
心配事が消えたわけではないけれど、悩んだからと言って解決するわけではない。
サザリンに年を聞けば十六歳、ジークと同じ年齢だった。
(ジークにしてもサザリンにしても年齢差があるのに話が意外と合うのよね)
自分の異世界年齢を知らないミオはそう思う。
流行の食べ物や店の話で盛り上がっていると、少し向こうの低木ががさりと揺れた。風かと思ったけれど、どうやら揺れ方が違う。ガサガサと左右に小刻みに揺れる様は、そこに何かが隠れているような。
(そういえばこの森で動物を見たことはなかったわ)
沢山の実がなり、水があり、枯れ葉が重なってできた柔らかな土や大木は動物達の寝ぐらにピッタリな気がする。
ガサガサ、ガサガサ。
次第に大きくなるその揺れに、本能的に足を川から出して立ち上がった。ミオのその反応に水と戯れていたベニーも低木を見る。
一拍、サザリンの顔色がさっと変わった。
「ベニー、こっちへ!!」
駆け寄ってきたベニーを抱き上げ、濡れた足のまま靴を履く。顔は青ざめそれでも低木から目を離さない。
「ミオさん、ゆっくり後退りをして」
震える声。それと同時に、まるで言葉を理解し逃さんとばかりに大きな茶色い毛の塊が低木の向こうから飛び出てきた。
長い耳、短い手足、丸い体。
普通なら可愛いと表現されるであろうそれは、しかしミオが両手を広げるほどの大きさがある。丸くつぶらなはずの赤い瞳は猛々しく、口元からはグルル呻き声とともに唾液か垂れる。そして頭には大きな角。
「……もしかして一角兎?」
かつて食べた真っ赤な肉が脳裏によぎる。生々しい、血のような赤。ぞくりと身体中が泡立つ。
「背中を向けないで、ゆっくりと遠ざかりましょう」
サザリンが震える手で、ミオの袖を引っ張る。ベニーに至っては今にも泣きそうな顔でサザリンにしがみ付く。
サザリンとて一角兎と対峙するなど初めて。ただ、数年前まで魔物の恐怖と背中合わせに生きてきたので、ミオより知識はある。しかし当然ながらやりあう方法など知らない。
ゆっくり石から下りる。少し間合いが取れたと思ったのに、一角兎は短い足であっという間に詰め寄ってきた。目の前に迫る初めての死の恐怖。



