異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

 ベニーが興味を示したこともあり、三人はさっそく森へと出かけることに。
 念のため暑さ対策として沢山作ったミント水も水筒に入れ持っていく。
 ジークが来た時のことも考え扉に「森に行ってきます」とメモも残しておいた。スペルのチェックはサザリンがしてくれたので問題ないはずだ。

 森に入ると気温が数度下がったように感じた。
 幾重にも重なり伸びた枝に生い茂る葉。川から吹く風で室内よりさらに涼しく感じる。
 それでも歩いていれば額に汗はにじむもので、それを手の甲で拭いながらミオはラズベリーの木が密集している場所で足を止めた。
「うわ、沢山のラズベリー。僕、木になっているの初めて見たよ。ねぇ、サザリン、食べてもいい」
 返事を聞くより早くベニーは真っ赤に輝く宝石のような実に手を伸ばす。
 サザリンも子供らしい顔になって、二粒採りハンカチで丁寧に拭くとベニーに一つ手渡した。
「美味しい。でも、ちょっと酸っぱい」
「家ではシロップ煮を食べることが多いものね。でもこの酸味がさっぱりして、私はこのまま食べる方が好きかも」
 そう言いながらサザリンはさらにラズベリーに手を伸ばす。
 店にいた時は「神の気まぐれ」を前にして彼女なりに緊張していたのだろう。今はすっかりリラックスしてラズベリー狩りを楽しんでいる。
「ミオさん、私、随分食べているけれどいいのかしら」
「もちろん。ここは領主様の土地と聞いていますし、この奥にもラズベリーの木はあります。そもそも、サザリン様達が召し上がったぐらいでジャム作りに差し支えはありません」
「そう、じゃ、遠慮なく。私、こんな風に木から摘んで食べたことがないから楽しくて」
 まるで姉弟のように仲の良い二人を横目で見ながら、ミオは良く熟したラズベリーとその葉をカゴに入れていく。手早く取ってもカゴいっぱいにするにはそれなりの時間がかかるので、今日はほどほどで切り上げ、足りない分は明日採りにこようかなと考えた。
 そのうちベニーが暑い暑いと言うので、ラズベリー狩りを中断して川に行くことに。
 川岸にある大きな石に腰掛け、靴を脱ぎ川の中に足を入れる。水はひんやりと冷たく、持っていたタオルも濡らし首筋に当てた。
 ベニーに至ってはじゃぶじゃぶと川の浅瀬に入っていき、何やら小さな魚と格闘を始めた。