異世界ハーブ店、始めました。〜ハーブの効き目が規格外なのは、気のせいでしょうか〜

「面識がないわけではないが、気軽に連絡を取れる間柄でもない。それに、騎士団がミオに肩入れしていると取られ、町の衛兵との仲がこじれても厄介だ。それとなく話をするきっかけがあればよいのだけれど」
「作ればいいじゃん、そのきっかけを」
「簡単に言うな。今、国境付近で魔物の出没頻度が上がっているんだ。この前ドラゴンが現れたって言っただろう? どうやらあれが国境向こうの山をねぐらにしたらしい。それで雑魚がこっちに逃げてきてちょっと手が離せないんだよ」
 うんざりだとばかりに椅子の背に身体を預けるドイル。
 世間話のようにサラリと言っているが、内容はとんでもない。
「あの、それは大丈夫なのでしょうか」
 こんなところで呑気に飲んでいて大丈夫なのか、とう意味だ。
 片腕を失くしていなければドラゴンを一人で仕留められると言っていた。それほどの豪剣なら国境に張り付いていて欲しい。
「なに、若者に場数を踏ませるのに丁度よい相手、ジーク達に頑張って貰っている。そうだ、そのせいかヤロウ軟膏の減りが予想より早いので新たに作ってくれないだろうか」
「分かりました。では明日にでも空になった缶を取りに伺います」
「それならジークに持たせる。あの付近まで魔物が出没しているとは思えないが、念のため見回りもさせておく」
 ドイルは安心させるつもりで言ったのだろうが、それは魔物が近くにいるかも知れないということ。ますます青ざめるミオに向かって、ドイルは大丈夫だと唇の端を上げた。
「心配しなくてもミオの家の近くにはリズがいる。全く問題ない」
「はあ……」
 どういう意味だと首を傾げリズを見るも、明後日の方を向いていて目線は合わなかった。

6.異世界の洗礼

 リズの店で食事したミオは、ドイルの馬に乗せてもらい帰宅した。リズはというと、辻馬車がなかったので歩いて帰宅だ。
 次の日は店の定休日。
 異世界に来てからは休日だからと言って昼まで寝ることはない。
 窓を開けると、朝にも関わらず既に太陽は眩しく真夏の気配を感じる。
「フーロに頼んでもエアコンは使えないのよね」
 がっかりしながら壁に張り付いた四角い物体を恨めしそうに眺める。