ひどく真剣に覗き込まれたものだから、こんなところで泣くわけにはいかないと、頼りない笑いをへらっと浮かべながら実はね、と軽い口調で答えた。
「ベニー坊ちゃんを助けた礼をしたいから、とマーガレット様からの誘いを受けお屋敷に行ったんだけれど、途中でカーサス様が帰ってこられ、突然出て行けって怒鳴られたの。どうもハーブは人に害をなすと誤解しているようで」
 そこで言葉を途切らせ、空を見る。
 三十年も生きていれば、怒られたことも怒鳴られたこともあるけれど、あんな風に出会ってすぐに憎悪を向けられたのは初めて。恐怖で身はすくむし、胸は苦しく痛い、それに加えて理不尽な言葉に怒りも湧く。
「……そう、大変だったわね。そうだ、ミオ、私の店に来ない? 私ばっかり通ってるんだもの、一度ぐらい来なさいよ」
 カラッとした顔で立ち上がり、でも有無を言わさぬ仕草でミオの手を取る。
 優しく手を引き立たされて、そうかこういう気遣いをする人なんだな、と改めて思った。
 全ての人が理解してくれる訳じゃない、でも分かって欲しいと思う人が理解してくれるならそれで良いかと、少し思えた。
「うん、私も一度リズのお店に行きたかったんだ」
「それなら話は早いわ。ここから歩いて十分ほどよ」
 ガチャガチャとリュックの中で瓶がぶつかる音を聞きながら、二人はお店へと向かう。
 途中のパン屋でバゲットとスコーン、それから肉屋でソーセージとハムを買い、最後に卵や牛乳も買った。リズは両手で抱えるほどの紙袋を持って、大通りの西側の裏路地にある小さなお店の前で立ち止まった。
「ここがリズのお店なのね」
 濃いダークブラウンのカウンターと、背の高い小さなテーブルが四つ。天井から垂らされた灯りは黒いランタンのような形をしている。落ち着いた雰囲気ながら大人で濃厚な空気が流れるバーをミオはぐるりと見回した。
「なんだか大人って感じね」
「当たり前でしょ、夜のお店だからね。それよりキッチンも小さいけれどあるし、夕食はここで済ませない?」
「リズさえ良ければ。何か作ろうか?」
「それなら簡単にできてお客に出せるような料理を教えて。お酒を飲みに来たくせに、腹が減ったっていう客が一定数いるのよね。うちは居酒屋じゃないっていうの」
 文句を言いながらも何か作ってあげたいと思っているようで。