「はい、妊婦さん以外でもお召し上がりいただけます。ただ、妊娠初期から中期で飲まれるのは早産の危険性が出てくるのでやめてください」
「だから、初めに妊娠何ヶ月か確認したのね」
「はい。八ヶ月でしたら大丈夫です」
 もちろん飲んでお腹の張りが酷くなる等、何かあればやめた方がよい。あくまでも一般的な目安であることも伝えておく。
 飲んでよいと言われ、ベニーがさっそくカップを手に取った。
「頂きます……っ、えっ、なんかこれ……」
 声がしおしおと萎んでいく。どうやら思っていた味と違ったようで、眉をよせ渋い顔になってしまった。お子様の口には合わなかったのか、もしくはラズベリーと聞いて果実水のような味を期待していたのか。
「宜しければ蜂蜜を入れましょうか?」
「うん」
 ミオに聞かれ、ベニーは大きく頷く。蜂蜜をひと匙垂らしくるくると混ぜ再び手渡すと、今度は「甘い、美味しい」と言ってあっと言う間に全部飲んでしまった。こうなるとハーブを気に入ったのか蜂蜜が好きなのか、いまいち疑問だけれど可愛いから良いことにする。
 マーガレットはまずは匂いを確かめ、上品にカップに口をつけた。
「あっさりとしていて飲みやすいわ。甘いお菓子にも合いそうね」
「お母様、僕もそう思うよ。クッキーとかいいんじゃないかな。あとはケーキとか、マドレーヌとか……」
「はいはい。マーラ、クッキーとマドレーヌを持って来てくれないかしら」
「はい、今すぐに」
 マーガレットの呆れたような声とベニーの笑顔が微笑ましい。マーラもクスクス笑いながら部屋を出て行った。
「マーガレット様、ラズベリーリーフが入ったこちらの瓶をお譲りいたします。使った後はしっかりと蓋を閉めて保管してください」
「ありがとう。まだ時間はあるのでしょう? もっとハーブについて教えてもらいたいわ」
 はい、とミオが答えようとした時だった。
 静かだった屋敷内に大きな足跡が響き、次いで勢いよく扉が開けられ、険しい顔をした大柄な男性が突然部屋に押し入ってきた。
「おい、ここで何をしている!」
 和やかな空気を吹き飛ばす怒声にミオの肩が跳ねた。マーガレットが慌て立ち上がり男に駆け寄る。
「お帰りなさいませ、カーサス様。実は貴方が留守中にベニーが迷子になって……」
「その話は今しがた執事から聞いた。俺が言いたいのはどうしてその女を屋敷に上げたのかということだ」