家族との縁が薄かったミオは自分が家族を持つことがどうもイメージできない。誰かが自分にとってかけがえのない存在になったら、と想像してまず思うのは、無くなった時の喪失感がどれほどかという恐怖。そのせいか友人はいても心の底まで見せたことはないし、見せ方もよく分からない。恋人なんて異次元の話だ。
「ラズベリーリーフティーはやっぱりラズベリーのように甘酸っぱいのかしら」
 マーガレットの問いに、ミオは慌てて思考をハーブティーへと戻す。
「いえ、あっさりとしていてクセがない味です。ほんのりと甘みがあるので飲みやすいですし、甘みが足りなければ砂糖や蜂蜜を足すこともできます」
 もっと分かりやすくいえば、ほうじ茶や緑茶などお茶に近い風味なのだけれど、異世界には通じないかとその説明は省くことに。
「ではこれでお願いするわ」
「畏まりました。では台所をお借りいたします」
 瓶を一度バスケットに戻してミオが立ち上がれば、ベニーが颯爽と扉を開けてくれた。エスコートのつもりか、早く見たいのか。おそらく後者だろう。

 台所につくと、すでに湯を沸かしてくれていた。カップも三つ用意してくれている。
 ミオは湯でティーポットとカップを温め、ティーポットにスプーン三杯のラズベリーリーフを入れ湯を注いだ。その様子をじっと見ているマーラに、このまま三分待って、それからハーブを取り出し軽く揺らし混ぜることを伝える。
「マーラ、一番近くの客間にハーブティーを運んで。ミオさん、そこでティータイムにしましょう」
「畏まりました」
 マーラがトレイを持って前を歩き、今度は一階のほぼ中央にある部屋に案内された。
 広い庭に続くテラスにはすでにテーブルと椅子がセットされていて、砂糖や蜂蜜も並んでいる。
 風が花の匂いを運んできて、アフタヌーンティにはぴったりの場所だ。
 マーラがテーブルにトレイを置いたところでちょうど砂時計が落ちた。ミオはポットを軽く揺すり、いつものように金の粉が浮かび消えるのを見届けるとカップに注いだ。
「どうぞお召し上がりください」
 マーガレットとベニーの前にハーブティーを置く。ラズベリーリーフティはそれほど強い香りではないので、匂いに敏感になっている妊婦さんでも大丈夫だ。
「これはベニーが飲んでも大丈夫なのかしら?」