「先日は息子がお世話になりありがとうございます。わたくし、ベニーの母親のマーガレットと申します。どうぞソファにお掛けになって」
「ありがとうございます」
 ミオは勧められるまま、マーガレットの前に腰を降ろす。ベニーはソファに膝を乗せよじ登るようにして母の隣に座った。
「マーラ、あれをミオさんに」
「はい、畏まりました」
 マーラは窓際のチェストに置かれている小さな白い布袋を手にすると、それをミオの前にあるローテーブルに置いた。小さくカチャカチャ音がするので中身はおおよそ想像がつく。手のひらサイズだけれどずしりと重そうだ。
 ミオは慌て胸の前で手を振る。
「私は大したことをしていません。それに詰所までベニー坊ちゃんを連れて行ったのはジークという騎士です」
「ええ、それは聞いています。彼にもお礼をとお手紙を書いたのですが、騎士として当たり前のことをしただけなので謝礼は受け取らないと言われました」
「それなら、私も」
「あら、あなたは騎士ではないわ。民を守る義務はございません」
 それはそうだけれど、迷子を助けるのは大人として当たり前なわけで。
 困った顔で白い袋を見るミオに、マーガレットは
「では、それはハーブティーの出張代として受け取ってください」
 と言って小袋をミオの前にずずっと勧めた。引っ込めるつもりはないらしい。
 袋の中に詰められた硬貨の種類は分からないけれど、枚数的には五、六枚。まさか金貨ではないと思うけれど、銀貨であっても出張代には充分多すぎる。
(でも、ここで押し問答するのもおかしいのかも知れない)
 異世界の常識は分からないし、貴族の懐具合はもっと分からない。ただ、お屋敷を見る限り平民の何十倍、いや、何百倍も資産はありそうだ。それなら、これ以上断り続けるのも無粋だと、ミオは小袋を受け取ることに。
「ありがとうございます。ですがやはり頂き過ぎです。数種類のハーブを持って来ましたから、もしお気に召したハーブがあればお譲りします、仰ってください」
「それは楽しみだわ。譲って頂けるなら淹れ方も教えてくださらない?」
「もちろんです。あとで詳しくご説明します」
 ミオは小袋をバスケットに仕舞うと、変わりにハーブを取り出した。
(さて、何をお勧めしようかな)
 持ってきたハーブは十種類ほどあるけれど、そのうちの幾つかはマーガレットに飲ませるわけにはいかない。