何にでも相場というものがあり、それは大抵の場合需要と供給で決まる。新参者がそのバランスを崩すのは問題だと考え、ミオはその金額で頷いた。
 店の売上は一日大銀貨二枚、利益なら銀貨一枚弱。
 ありがたい収入源となった。
(これでリズにお金を返すことができる)
 ドイルはジークに書類を持ってこさせ、そこに何やら文字らしきものを書く。それからミオにその書類が、缶ひとつにつき小銀貨二枚で買う契約書だと説明してくれた。
「ここに名前を書いてほしい。この世界の文字でなくても問題ない」
 紙には誓約魔法がかかっていて、記入した人の魔力に反応するらしい。
(魔力が母印代わりってことね)
 ミオはペンを手に取り、葉月美桜と久々に自分の名前を書く。書き終わると紙がピカっと光り、それで契約の成立となった。
「では、私はこれで帰ります」
「ああ、わざわざありがとう。辻馬車は暫く来ないのでジークに店まで送らせよう。ジークついでに町まで行って衛兵にこの書類を渡してきてくれ」
「分かりました」
 ジークが受け取ったのは、このひと月で騎士が撃退した魔物の数。いざという時のために衛兵とは情報を共有している。仕える主人が違うからといって、いがみ合うことなどない。敵は魔物で守るべきは民という点で、騎士も衛兵も同じだ。
 平屋のすぐ横にある厩舎から、ジークは自分の馬を連れてきた。ドイルも見送ってくれるようで、部屋から出てきている。
「馬に乗ったことは?」
「ないわ」
「じゃ、まずそこに足をかけて、鞍を掴み身体を持ち上げる」
 ジークは簡単にいうも、やってみるとなかなか難しい。よいしょ、よいしょと、なんとかよじ登るようにして馬に跨った。
「俺は後ろに乗るから」
「後?」
 ふわりと風が起きたと思うと、すぐ後ろにジークが座った。早い。そして近い。
「「……」」
 二人して顔を見合わせ、サッと視線をそらした。
(近い、近すぎる。それでなくてもジークは整った顔をしているのに、アラサーの心臓がもたないわっ)
 二人して真っ赤になっにそっぽを向いている姿に、ドイルは必死に笑いを堪える。波打つ肩で二人を見上げ無理矢理真面目な顔を貼り付けてた。
「それじゃジーク、きちんと送り届けるんだぞ」
「も、もちろんです。行ってきます」
 他意なく言ったのだが、ジークはさらに顔を赤らめ「すぐに帰ってきます」と付け足した。