ミオは包丁とまな板を出して、ジークの前に置く。そして自分の分も出すと手早くローズマリーを刻み始めた。
 粗みじん切り程度に刻んだところで、塩と胡椒と一緒にコカトリ……鶏肉に刷り込む。ジークのおかげでミオの前にあるのは鳥のもも肉と変わらない状態。恐ろしい名前は頭の端に追いやり料理に専念することに。
 充分に刷り込むと、オリーブオイルを引いたフライパンで皮目からじゅうっと焼く。皮からにじみ出る油が鶏肉より多い気がする。
「ミオ、みじん切りにできたよ」
「ありがとう、それじゃニンニクをすってもらっていいかしら?」
 その間にミオは小さなボールを取り出し、細かく刻まれたバジルと町で買ってきた粉チーズ、オリーブオイルをざっくりと混ぜ塩を振りかける。そこにジークにすってもらったニンニクも入れた。
(本当はフードプロセッサーでしたら早いのだけれど)
 フーロに頼んだけれど、それは前回の「神のきまぐれ」の時代になかったものらしく、扱えないと言われた。ちなみに、ミオが使っている洗濯乾燥機も同じ理由で断られたけれど、頼み込んだところ何とか使えるようにしてくれた。フーロが持っている洗濯機の知恵とドライヤーの知恵を融合させたとか。
「あとはペースト状になるまでフォークの背でつぶせば出来上がりよ」
「へぇー、味見をしても?」
「もちろん」
 味見をしたジークが「少し苦い」というので、食べれそうか聞けば「問題ない」と返事が返ってきた。
 皮目をカリッと焼きバジルペーストをたっぷりかけた鶏肉と、ベーコンとトマトを煮込んだスープ、それからサラダで二人は夕食を摂ることに。
「いただきます」 
「……」
 手を合わせるミオの横でジークは短い祈りを捧げる。何か言っているようにも聞こえるけれど、聞き取れないし信仰なら異教徒が深入りすべきでないとそこは黙って待つ。
「お待たせ、さあ、食べようか」
「うん。お腹すいちゃった」
 二人はナイフとフォークで肉を切り口に運ぶ。じわっと甘い肉汁とバジルの僅かな苦味が絶妙に溶け合い、肉の旨味を引き立たせている。
「うまい! こんな料理初めて食べたよ。バジルがいいアクセントになっている」
「ローズマリーもいい仕事をしているわ。バジルペーストは子供受けが良くないから、ジークが苦いと言った時は口に合うか心配だったけれど気に入ってくれて良かった」