「……別にリズさんを避けているわけではないですよ?」
 ふーんとリズは目を細めジークを見る。次いで、その騎士顔負けの逞しい腕をジークの首に巻きつけた。
「それで、その後の進展は?」
「へっ、何のことですか?」
「いやいや、とぼけないで。これだけ頻繁に通って何もないわけないでしょう?」
 ぐぐっと腕に力が入った。ジークは苦しそうな声をだしつつ首を振る。
「何もないですって」
「二階に上がったことは?」
「部屋の掃除をしています」
「手ぐらい握ったよね?」
「まさか!!」
 真っ赤な顔をして焦り首を振るジークを、信じられないような目で見るとリズは手を離した。ぱちぱちと目を瞬かせたあと、訝し気に眉を寄せジークを見る。
「これだけ通っておいて? 嘘でしょう」
「当たりまえでしょう? 未婚の女性にそんなことするわけないじゃないですか!」
「……」
 山奥で育った青年はその見た目に反し、ずっとずっと純朴だった。リズはすっかり素に戻り「まじかこいつ、信じられねぇ」と呟く。
「うん? 二人ともどうしたの?」
 ミオが淹れたてのアーティチョークティをリズの前に出しながら、二人を交互に見る。
「うーん、何でもないわ。あぁ、やっぱりミオの淹れたハーブティは格別ね」
「ありがとう。ジークも飲む? それとも食後にする?」
「……食後がいいかな。コカトリスを捌くからキッチンを借りるよ」
 ジークはリズから逃げるようにキッチンへと向かった。ミオはその後ろ姿を見送りながらリズに厳しい視線を向ける。
「ジークを揶揄っていたんでしょう?」
「そんなことないわ。激励してたのよ」
 何を? と聞くもリズはアーティチョークティを飲むだけで何も答えない。そしていつもより早く帰っていった。
 
「ミオ、捌けたけれどどうやって食べる?」
「そうね。あ、裏庭からローズマリーとバジルを取ってきて香草焼きにするのはどう? 焼くだけだから簡単だし」
 ヤロウ軟膏作りを手伝ってもらったので、夕食はパパッと簡単に作りたいところ。ミオは裏口を開け庭に出ると、ハーブを摘んですぐに戻ってきた。
「ハーブって料理にも使えるんだ」
「そうよ。バジルペーストを作ろうと思っているの。ジーク、バジルを水洗いして水気をふき取ってくれる? そのあとは包丁でみじん切りにしてちょうだい」
「分かった」