「へえ、瓶はずっと置いとくだけでいいの?」
「中身を軽く混ぜるために一日一回瓶を揺するけれど、あとはそのままよ。簡単でしょう」
 瓶を揺するたびに金色の粉が輝き溶けていったことを話そうかと迷うも、結局言わなかった。
 ジークを信用していないのではない。ただ、話してもジークには見えないだろうし、そのことがドイル隊長経由で広まるのがなんだか怖かったのだ。
 「神の気まぐれ」が起こす奇跡として持て囃されても、それに答えられるだけ自信がない。それにヤロウ軟膏にどれだけの効き目があるのかも分からない。
「それで、この瓶をどうしたらいい?」
「あっ、えーと布でこしてハーブと植物油に分けるの」
 金の粉のことを考えていたミオは、はっとして答える。先程使っていた大鍋より二回り小さな鍋を取り出し、その上に布をかぶせた。
「私は布を抑えているから、ジークはその瓶の中身をゆっくり移し替えてくれる?」
「うん、分かった」
 ジークはひょいっと瓶を掴むと、少しずつ液体を注ぎ込む。実になれた手つきでだ。
「騎士団でも料理を作ったりするの?」
「もちろん。基本は見習い騎士の仕事だけれど、たまに当番が回ってくる。料理は子供の頃からしていたから得意だし楽しいよ」
「お母さんと一緒に?」
「小さい頃はね。母は数年前に亡くなって、それからは俺が母親代わりに家事と育児をしていた」
 ミオは瓶を持つジークの横顔を見る。いつもと変わらず穏やかな表情、でも苦労したんだな、と思う。
 妙に家事スキルが高い理由はその生い立ちからきていたようだ。
 瓶の中身を全部入れ終わったところで、布を巾着状にまとめ最後の一滴まで絞ろうとぎゅっと力を入れる。
「貸して、俺がやる」
「ありがとう」
 もう限界だろうと思うところまで絞ったにも拘らず、ジークに手渡すとまだまだジュッっと沢山絞れた。
「身体強化使った?」
「はは、こんなことで使わないよ」
 ちょっと鍛えようかな、とミオは自分の細腕を見る。異世界で暮らすには逞しさが必要な気がした。
「で、これを蜜蝋に混ぜるんだよな」
「そうよ。まずは湯煎で蜜蝋を溶かす。えーと、鍋はこれでいいかな」