「そう、鶏を数倍大きくして獰猛にしただけ。あーでも尻尾の方は、うん、大丈夫そこは切ってきたから」
 尻尾がどうしたのだろう。ミオは嫌な予感しかしない。
 それもそのはず、コカトリスとは雄鶏と蛇を合わせたような姿で、鱗に覆われた蛇の尻尾がついている。その部分は固く食べにくいので、食用として売られるのは鶏の部分だけ。だから、ジークの言う「ほぼ鶏」も決して嘘ではない。
「それって強いの?」
「そうだな、息に猛毒があるから接近戦は気をつけなきゃいけない」
「毒……」
「バジリスクをも超える危険な致死毒だけど、肉になってしまえば問題ない」
 けろっと真実を伝えるのは、繊細な乙女心に疎いから。悪気はない。しかし当然ながら途中からミオの顔色は青くなっていく。
(バジリスクは聞いたことがある、有名なファンタジー映画で見たあれよね。あれは食べれないけれど)
 そっと袋の口を開けば、そこにあるのは大きな鶏肉。とういうか七面鳥。クリスマスに海外の食卓に乗るあれに見えなくもない。それにお店で食べた時は、ジューシーな鳥のから揚げだと思った。いける、はず。
「ありがとう。じゃ、これは後で食べるとして一旦冷蔵庫にしまっておくね」
「うん、それで軟膏作りだけど俺は何をすればいい?」
 やはり手伝うつもりのようでシャツを腕捲りする。服装は町へ行った時と同じ洗いざらしのシャツにカーキのズボン、清潔だけれど服に気を使っている様子は微塵もない。
(でも、整った顔と鍛えられた長身の体躯だと何を着ても様になるのよね)
 足だってすらりと長い。ランチタイムに顔を見せれば若い娘が色めき立ちそうだ、と親戚の姉目線でミオは思いながら、その長い足もとにある棚を開け、十冊ほどが並ぶ本の中から一冊を取り出した。
「それは?」
「ハーブの専門書よ。簡単に説明すると、ヤロウで作った浸出油と蜜蝋を湯煎にかけてかき混ぜる。で、それを缶にいれて冷やし固める」
「簡単そうに聞こえるけれど、浸出油って何?」
「それはもう作ってあるわ」 
 ミオは二階に行くと大きな瓶を抱え降りてきた。透明な液体にヤロウのドライハーブが浸かっている。
「これは何?」
「植物油にヤロウを浸したものよ。こうやってハーブと植物油を馴染ませ日当たりの良い場所に二週間置くと、植物油にヤロウの成分が浴出されるの。軟膏にはその油を使うのよ」