「勇者様とドイル隊長、二人で魔王を倒したのですか?」
「いや、あと二人。魔法使いと回復魔法を使える者がいた」
 おぉと、ミオは心の中で叫ぶ。まさしくこれぞ異世界。
「それで残りの三人はどこにいらっしゃるんですか?」
「回復魔法使いは王都にいて怪我人や病人を助けている。魔法使いは王都に戻る途中に姿を消した」
「消した、とは?」
 行方不明ということだろうか、まさか誘拐ではないわよね、とミオは首を傾げる。
 ドイルは、ほとほと困ったとばかりに大きく息を吐いた。
「そういう奴だ。よく言えば自由、悪く言えば協調性がない。王様に挨拶なんて面倒だと言って転移魔法でトンズラした」
「なっっ」
 それは些か、いや、かなり自由すぎるだろう。少し羨ましくもあるが、残されたメンバーは大変だっただろうと、ドイルの眉間の皺を見ながら察する。
「大変でしたね」
「まあな。しかし、何が恐ろしいかって、全員がそうなることを予想していたってことだ」
 その境地に至るまでの苦労たるや如何程か。
 残された者は、驚きよりもやっぱりかと思ったらしい。
「それで、勇者様はどうしているんですか?」
 おそらく一番の功労者であろうその人物のその後だけドイルの口から出てこない。
 当然の問いなのだが、ドイルは暫く言葉を詰まらせ次いで遠い目をした。なんだか哀愁漂う、しかも微妙な表情だ。
「……あいつは、凱旋するなり勇者として持て囃され、さらに見目が良かったからわんさかと女が寄ってきたんだ」
「それは……喜ばしいことのように聞こえるのですが」
「怪しい贈り物をされ、魅了魔法をかけられ、媚薬を盛られてもか? ま、あいつが注目を集めてくれたから俺は助かったが」
「うっ、災難ですね。それで、勇者様はどうされたのですか?」
「最終的にブチ切れていろいろ拗らせ、魔女同様姿を消した。恐らく、自分の素性を知らないど田舎で呑気に酒を飲んでいるんじゃないかな」
 どんな拗らせ方をしたのだろう。不憫すぎる。
 あらかた食事が終わったところで、最終の辻馬車の時間だとジークが言い、二人は慌てて噴水へと向かった。馬車の中で、もう一度ヤロウ軟膏を作る日を確認し、ミオの初めての街歩きは無事に終わった。

4.騎士団への出張販売

 町から帰って来て二週間後。