「ミオ、一角兎は一メートル以上……いや大きい物だと二メートル近くあるし、雑食(・・)だから絶対に近寄っちゃ駄目だよ」
「雑食」
 雑食とはこの場合、何を食べるのだろうか。いや、これ以上聞くのは止めておこう。ミオは思考を放棄し食事を続けることにした。そうでなければ、この世界で生きていけない。
「ジーク達は一角兎も退治するの」
「もちろん。それほど強くないし、肉は高値で売れるから騎士団のいい資金源になっている」
「それって、魔法で仕留めるの? それとも剣?」
「俺とドイル隊長は身体強化魔法を使い剣で、エドは炎魔法を使える」
 エドが手のひらを上に向けると、直径五センチほどの火の玉が浮かんだ。ちょっと得意気に口の端を上げている。
「凄い! 初めて見たわ」
 その言葉にエドはますます炎を大きくするも、ドイルに睨まれ途端それはしゅわしゅわと縮んだ。  
 騎士達はミオを揶揄ったことを口々に詫び、その口調に(あまり反省していないな)と思いながらもミオは許した。
 そのあとは、これは鶏に似ているとかほぼ猪だとか、知るつもりの無かった肉の原型を教えて貰いながら、テーブルの上の肉を一通り口にした。少し硬いものもあったけれど、おおむね鶏肉と豚肉と解釈しておくことに。
 食事も終わりに近づいた頃、ミオはドイルが右手しか動かしていないことに気がついた。右利きだとしても不自然なほど、左腕はだらりと下ろされている。
 その視線に気づいたドイルが苦笑いを浮かべた。
「俺の左手は肘から下がない。不作法は多めに見てくれ」
「そんな。私こそ不躾に見てしまい申し訳ありません」
「気にする必要はない。名誉の負傷だ」
 その顔に悲壮感はく、言葉通り誇りに思っているように見える。悠然と右手でジョッキを飲み干す姿は勇ましく、実際、片腕だけでも若手騎士数人が束になっても敵わない。
「ミオ、ドイル隊長は勇者と一緒に魔王を倒した一人なんだ。左手の傷はその時のものらしい」
「そうなんですか!?」
「ジーク、昔の話だ」
 余計なことは話すなと眉を顰められるも、ミオは身を乗り出す。
「凄いですね。それで今は隊長として国境を守っていらっしゃるんですか」
「隊長とは名ばかりだ。何せ右腕しか使えない」
 それでも一番強い。戦いに明け暮れ負傷した身でありながら、なおも国境を守る道を選んだドイルは人望が厚い。