そしてエドが、ジークのことを気が利かないと評したのはこういうところだ。せっかくフォローしたのに怖がらせてどうすると、エドは半目でジークを見た。
「昔はあんなのがゴロゴロいたからな。しかし、仕留め損ねたのが悔しい。以前は俺一人でもやれたんだが」
 ドイルの言葉に、今度はジークとエドが青ざめた。ドラゴンは、通常騎士三十人が束になって敵うかどうか。それを一人でできると言い切ったのだ。
 見れば体格もこの中で一際大きい。ジークだってエドだって長身だし鍛えられているのが服の上からでも分かる。しかし、ドイルは別格。太い首に分厚い胸板、まさしく百戦錬磨の戦士だ。
「ちなみに、国境を守る騎士は何人いるのですか?」
「五十人ぐらいかな」
「それだけで大丈夫ですか?」
 素人ながらにもっと人員が必要なのでは、と思ってしまう。せめて倍、いや、三倍はいて欲しい。
「そんなに不安な顔をしなくても大丈夫だ。ニ年前まで魔物はうようよいたが、勇者が魔王を倒してから強い魔物は滅多に現れない。ジークやエドは若いから魔物と戦った経験は少ないが、ベテラン騎士にしてみれば時々現れる小物など手慣れた狩りと同様。そう心配することはない。町も穏やかだろう?」
「……はい。活気があって治安も良いように思いました」
 ミオの店に毎朝二日酔いの客がわんさかやってくるのも、考えようによっては平和な証かも知れない。それにこの二年間、問題なかったからこの体制なわけで。それなら大丈夫だろうと思うことにした。

「はい、料理お待たせ」
 ミオがホッとしたところで女将さんが両手いっぱいに料理を持ってきてくれた。はい、はい、と次々テーブルに乗せていき、あっと言う間にテーブルはお皿でぎゅうぎゅうに。グラスの置き場所を探すのにも一苦労だ。しかしこれらの料理、と澪は並べられた皿を見る。
(お肉ばっかり)
 脳筋にはバランスよく食べるという思考回路はないらしい。テーブルがほぼ茶色の料理で埋めつくされている。一口大の大きさの煮込まれた肉が幾つも入った器や骨つき肉のフライ、大きなソーセージに厚切り肉がどん!見ただけでアラサーは胃もたれがしてくる。
 さらに「肉ばっかり食べてないで。これは国境を守ってくれているお礼よ」と女将が置いていったのは魚のフリッターだった。なぜ。
「さあ、食べよう。ミオも遠慮するな」
「……はい」