「ま、ジークの話はそれぐらいにして、ミオ、何でも食べれるなら適当に注文していいか?」
「はい、お願いします」
 ドイルが手を上げ幾つかの料理を注文し、エールも二杯追加した。知らぬ間にドイルとエドのエールも四分の一ほどしか残っていない。
「それで、軟膏はいつできそうかな?」
「ハーブの下準備に二週間かかるので、半月後にはお持ちできると思います」
 ミオは鞄から缶を取り出し、この大きさで十個作る予定だとドイルに説明する。
 ジークは隣に座るミオの腕を軽くつつくと、小さな声で話しかけた。
「わざわざ騎士団まで持って来なくても、俺が届けるよ」
「ありがとう。でも、買い取ってもらう訳だから私が訪ねるべきだと思う。お邪魔だったら止めておくけど、騎士団は私が行っても大丈夫な場所かしら?」
「時々騎士の家族や村人が差し入れに来るぐらい開けた場所だよ。一日二本だけれど辻馬車も走っている」
「じゃ、それに乗っていくわ」
 辻馬車の乗り方は覚えたし、今度は町とは違う方向にも行ってみたい。もしかすると、自生したハーブを見つけられるかも知れないし。
(プランターで育てていたハーブは庭に移したけれど、全部のハーブがあるわけではないし)
 開店に向けハーブは沢山仕入れていたのでまだ在庫切れはしていないけれど、これからハーブをどうやって手に入れるかを考えなければ、死活問題だ。
 でも、ここで一つ気になることが。
(そういえばリズは、騎士たちは魔物が国境を超えないよう守っていると言っていたっけ)
 だとすれば、国境付近まで行くのは危険なのではないだろうか。いくらハーブのためとはいえ、魔物との遭遇は避けたい。
「あの、ドイル隊長、国境付近では魔物がよく出るのですか?」
「何、大したことはない。五日に一度程度だ」
「……五日に一度」
 ドイルの言葉にミオの顔が青ざめる。魔物はミオにとって日常の産物ではない。
「ミオちゃん、大丈夫大丈夫。大抵弱い奴だから」
「……大抵」
「でも、ひと月前のドラゴンはびっくりしたよな。俺もエドも見たのは初めてだけれど、ドイル隊長は何度も見ているんですよね」
「……ドラゴン」
 何だそれ。安全なのか。やっぱり行くのやめようかなとミオは思う。