「いやいや、両手に荷物を持った女性の隣を手ぶらで歩かせないで。はい、素直に渡して」
「……ありがとう」
 ジークはミオが差し出した紙袋を片手で受け取ると、さてこれからどうしようかと考える。迷子騒ぎで辻馬車に乗り損ねてしまった。視線の先の停留所には、先程はなかった人の列がずらりとできている。
「村人の帰宅時間と重なったか。どうする? 食事をして時間をずらして帰るっていう手もあるけれど」
「そうね、せっかく来たし夕食を食べて帰りましょ。今日のお礼にご馳走するわ」
「嬉しいけど遠慮しておく。お礼はミオの淹れるハーブティーがいいから」
 にこりと笑った顔が甘い。可愛いこと言ってくれる、とミオは少し頬を赤らめしかし直ぐに首を振る。
(アラサーにはもったいない言葉と笑顔。私だからいいけれど、若い子相手にそんな顔したら誤解されちゃうわよ)
 心配になる。何でも疑わずに口にするジークだから、怪しい媚薬だって飲まされかねない。
 大通りの両脇には数軒おきに飲食店が並ぶも、まだどの店も満席にはなっていない。でも、道を歩く人の数はさっきよりグッと増えていた。
「さて、何がいい?」
「この国らしい料理がいいわ」
「らしい、ね。そうだ、それなら美味しい家庭料理を出す店が近くにある。何度かドイル隊長に連れて行ってもらったことがあって美味しかったよ」
「じゃ、そこがいい」
 店は噴水から歩いて五分ほど。混まないうちにと二人は少し早足でそこに向かった。
 一度大通りを離れ、そのまま西に少し歩いたところにあるその店は、赤い屋根のこぢんまりとしたアットホームなお店だ。
「こんばんは」
「あら、ジーク。あなたも来たの。ドイル隊長なら奥のテーブルよ」
 女将さんらしき人の言葉にジークが仰け反り頬を引き攣らせる。
「げっ、隊長が来ているんですか?」 
「あなたの悪友エドもいるわよって、あらあら、ジーク、可愛らしいお嬢さんと一緒なんてどうしたの!?」
 女将がジークの後からちょこんと顔を覗かせるミオに気づく。気づいたのはいいが、ジーク、のところから声のボリュームがグググッっと上がっていった。
「うん、ジーク?」
「女と一緒!?」
 奥のテーブルで、耳聡くその声を聞いた男二人が立ち上がる。その内の赤色の癖毛の男がツカツカと駆け寄ってきた。