「まぁ、騎士様でございましたか。この度はご迷惑をおかけいたしました。もうすぐ主人が参りますのでお待ちいただけますか? お礼をさせて頂きます」
「いいえ、俺たちはこれで。あっ、ミオ、ハンカチはどうする」
 その言葉にマーラの視線がジニーの膝に巻かれたハンカチへ。ヤロウの葉の汁と赤い血が混ざりなんともどす黒い色になっていた。
「これはいったい!」
 マーラは、明らかに不審な色に青ざめながらハンカチを解こう手を伸ばす。
「転んで怪我をしたら、あのお姉さんが巻いてくれたの」
「あぁ、なんてこと。それにしてもこの色はいったい」
 恐る恐るハンカチを外したところで、マーラの手がぴたりと止まった。どうしたのかと覗き込めば傷口は消え、つるりとした膝小僧がそこにある。次いでハンカチに目をやれば、ぐちょりとつぶされた葉が血と混じってこびりついていた。
「あの、騎士様これはいったい……坊ちゃまに何をされたのですか?」
 眉間に皺を寄せ、いぶかしげに聞いてくる。ジークは困ったな、と頭を掻きながらどこまで話していい? とミオに目線で聞いてきた。
「マーラ、嘘じゃないよ! 本当に怪我したんだよ、いっぱい血も出たんだよ。だから痛くて動けなかったんだ! 信じて」
 痛かったんだよ、だから迷子になったのは仕方ないんだ、と言い訳を続けるベニー。
 ミオはそっとジークの袖をひっぱり耳に口を近づけた。
「ヤロウのことはまだあまり知られたくないの。軟膏作りがうまくいくか分からないし、効き目もはっきりしない状況で期待させるのは申し訳ないわ」
 ハーブ自体はギリシャ時代から使われていたものだから害はないと思うけれど、薬として期待されるだけの効果がどこまであるのか分からない。
「分かった、それじゃヤロウのことは黙っていよう。あとはどうやってここから立ち去るかだけれど」
 ジークはベニーに目を向ける。
 ベニーは両方の指で直径五センチほどの円を作り「これぐらいの怪我でね」とまだ必死に訴えるも、マーラは「傷ひとつないですよ」と膝を指差していた。二人とも膝小僧ばかり見てミオ達にまで気が回っていない。
「このまま立ち去ろう」
 ジークの言葉にミオは頷きそっと後ずさると、傍にいた衛兵に軽く頭をさげその場を後にした。

詰所を出たところでジークがミオの持っている紙袋に手を伸ばす。
「大丈夫、自分で持てるわ」