しゅん、と落ち込むミオを見てジークは慌てて胸の前で手を振る。
「でも、女っ気がないからこそ、こういう柄はいいかもしれないね。ほら、なんか癒されるし?」
 明らかにフォローされている。
(でも、作る私のテンションが変わるの!)
 どうせなら可愛く仕上げたいというのが乙女心。この心のあり様が部屋に対しても現れれば汚部屋にはならないのだが。
 騎士達がこだわらないのであれば自分が好きな柄にすればいいかと切り替えて、缶を次々と手にしていく。どれもこれも可愛くて、その中から花柄を中心に選ぶ。
 楽しそうに買い物をするミオの横顔を見ながら、ジークはゆっくと待つことにした。
 選んだ缶の代金を支払い鞄にしまって店を出た二人は、次は東へと向かう。食料品を扱う店は町の東側に多く、西は靴や服、馬具などを作る職人が多く住む。
「ヤロウ軟膏はいつ作るんだ?」
「下準備もあるから二週間後かな」
「作るのを見てもいい?」
「いいわよ」 
 ジークのことだから手伝ってくれるつもりなのだろうと思う。
 そうだとしても、軟膏を騎士団に定期的に卸すとなれば仕事が増える。
 騎士や農家は例外として、この国では六日働いて一日休む人が多いらしい。店や職人もそうで、だから村から町へ通う人も休日は極端に少なくなる。それなら一層のことミオの店もその日を定休日にしようかと思っていたところ。それなら軟膏を作る時間もできそうだ。
「ジーク、私の店も定休日を作ろうと思っているんだけれど」
「うん、そうした方がいいよ。俺もそう言おうと思っていたんだけれど、異世界に馴染もうと頑張っている姿見ると言い出せなくて。でも、ずっとこの世界で暮らしていくんだから、もう少し肩の力を抜かないと疲れてしまうよ」
 そんな風に見られていたのかと思う。
(一回りも下の子に心配されていたなんて、ちょっと気を張り詰めすぎていたかも)
 もともと仕事とあらば、寝食忘れてがむしゃらにやってしまう。結果、家には寝に帰るだけで汚部屋へとなったのだが。
 それも含めて、異世界に来たのだから生き方を変えてみてもいいのでは、と思った。
「決めた、お客様が少ない日を定休日にするわ。できればその日に軟膏を作りたいのだけれど、ジークの仕事はどう?」
 二週間後の定休日は、ジークが早朝当番の日だった。それなら夕方から作ろうと決め、二人は残りの買い物に取り掛かった。