「ちょっと暑くなってきたし、シャツ一枚でいいかな」
 リズに聞けばこの世界にも四季はあって、これから夏になるらしい。水色のストライプのシャツと膝下丈のカーキのスカートを選ぶと、着ていた仕事用のTシャツとGパンを脱ぐ。
 結んでいた髪は解いてハーフアップにし、軽く化粧をしてからハッと気がついた。
「これじゃまるで浮かれているみたいじゃない」
 アラサーが十代相手に恥ずかしい。下手すりゃ犯罪者だと慌てて髪を解く。うっかり髪飾りまで付けるところだった。軽くブラシを通して鞄を持ったところで下から声が聞こえた。
「ミオ! 用意はできた?」
 覗けばジークがこちらを見上げている。当然ながらいつもの騎士服ではなく、洗いざらした白いシャツにちょっと色あせた紺色のズボンを履いていた。爽やかだ。
「すぐに行くわ」
 返事をして窓を閉めると、もう一度鏡を見て気合いを入れすぎていないか確認する。
 スカートを履くのは異世界に来てから初めてだけれど、初の町デビューなのでそこはいいとしよう。
 階段を降り扉を開けると、ジークは店のわきにリズが作った馬止めの杭に紐を縛っていた。馬の前には藁と水がすでに置かれている。
「お待たせ。休日なのにごめんね」
「いいよ、俺も久々に出かけたか……」
 答えながら顔を上げたところで言葉が止まる。どうしたのかと首を傾げれば、ジークはぽかんと口を開けミオを見ていた。
「どうしたの?」
「あっ、いや、なんでもない。いつもと雰囲気が違うかからびっくりしただけで」
「髪を降ろしたからかしら。あっ、ちょうど辻馬車が来たわ」
 ポクリポクリという蹄の音とガラガラと回る車両の音が聞こえてきた。ミオは異世界に来るまで馬車を見たことがなかったからその違いに気づいていないけれど、この世界の馬車のスピードは元いた世界の三倍ほど。長閑な音は存外早く近づき、そして手を上げたジークの前で止まった。
「乗ろう」
 ジークは年季の入った馬車の扉を開ける。飾り彫りが施されているけれど、擦れたり傷があったりで何が描かれているのかは分からなかった。
 荷馬車の中は二人掛けの椅子が左右に五列ずつ、合計二十人を乗せ引っ張る馬の数が二頭。この時点で見た目は馬だけれどミオの知る馬でない。
「ねえ、この荷馬車を引っ張っている動物は何?」
「? 馬だよ」
 名前は同じらしい。