回復魔法を使える者も国には数人いるらしいけれど、それこそ王都にいてこんな場所にくることはないという。
 事情を聞いて、ヤロウティが必要とされていることは理解した。でも、
「あれはあくまでハーブティだから日持ちしないわ。冷蔵庫に入れておけば二日ぐらいは持つと思うけれど、薬としてストックするには不向きだと思う」
「そうか。それだと使い勝手は悪いよな」
 がっくりと項垂れるジークを見て、ミオは何か案はないかと考える。だって、ヤロウティは傷を治す。ミオだって『神のきまぐれ』として酔いどれ以外も助けたい。
「確か、ヤロウと蜜蝋と混ぜて軟膏にすることができたかも。瓶や缶で密閉すれはそれなりに日持ちはすると思う」
 作ったことはないけれど、ハーブについては勉強して飲む以外の知識も持っている。固形にすれば持ち運びもできるし、騎士一人ひとりに携帯させることだってできる。考えれば考えるほど良い案に思えてきた。
「それなら、明日、蜜蝋と缶も買おう。資金は隊長からもらってくるよ」
「待って、まだ作れるって決まったわけじゃないしそれは受け取れないわ。そうだ、完成したら買い取ってもらえないか頼んでくれないかしら」
「分かった。こっちから頼んでるのだから買うに決まっているけど、隊長には伝えておく」
 騎士たちは皆、寮で寝泊まりしているので帰ったら話を通してくれるという。
 ちなみに、ヤロウはミオがベランダで栽培していた物を庭に移植したところ、元気に繁殖してくれている。
 そのあとも二人はたらふく食べ、しゃべり、時計が十時を指したころジークは帰っていった。
「ミオ、俺が帰ったら必ず鍵をしめるんだよ」
 帰り際必ずそう言うジークに(心配性ね)と思いながら、自分を気遣ってくれる人が一人増えたことを嬉しく思った。

次の日の二時、ランチ最後の客を見送ると明日のパン生地を捏ね下準備を手早く終える。
(洗い物は帰ってからにしよう)
 パンは発酵時間がかかるからこの時間にはしなきゃいけないけれど、洗い物はシンクに水を溜めつけておくだけに。壁の時計を見れば、もうすぐジークが来る時間だ。ミオは手早くエプロンを外すとタッタッタッと二階に駆け上がる。
 すっきりと片付いた部屋のクローゼットをあければ、季節ごとに服が整理されている。以前のようにセーターの下から半袖が出てくることはもうない。ジークに感謝だ。