「野菜や草花の、種や苗と一緒に転生してきたらしい。当時この国は大規模な飢饉に襲われていたんだけれど、彼の功績であっという間に食糧が市場に出回ったて聞いている」
「あっという間?」
「うん。彼が植えた種は二時間で芽を出し、二日後には実を付けたらしいよ」
「……二日後」
「しかも季節関係なく花や実をつかせるから、それ以降この国は飢饉に陥ったことはない。まさしく救世主だよ」
「……!!!」
 何それ、もはや気まぐれではなく神レベル。
(それに対し、私は毎日酔いどれたちにハーブティーを作る日々)
 ミオだって感謝されている。しかしだ。片や国を救いもう片方は酔いどれを救う。
 神は気まぐれすぎないか。与える能力は均等にしてもらいたい、ミオは不貞腐れながら思った。
 がっくりとうなだれるミオをジークは不思議そうに見る。
 ジークにすればミオは命の恩人で、決して酔いどれを救う女神ではない。
「ミオ、野菜の下ごしらえはできてあとは茹でるだけなんだけれど」
「あ、うん。ごめん、ちょっと意識がとんでいたわ。えーと。鍋にチーズと牛乳、白ワインを淹れて火にかけたいんだけれど、ジークごめん、上の棚から鍋を取ってくれない?」
「いいよ」
 ミオは決して小柄ではない。でも、踏み台なしでは届かないその場所に、ジークはあっさり手を伸ばす。しかも重い鍋を片手でひょいと持つと軽々とおろしてくれた。
「やっぱり男の子ね」
「……男の子?」
 心外だとばかりにジークの眉間に皺が入るも、ミオはそれに気づかない。
 鍋を受け取ると材料を火にかけ準備を進める。ジークは不満そうに唇を尖らせながらも野菜を茹で始めた。
 用意ができたところで四人掛けのテーブルに移動する。
「はい、どうぞ、ミオ」
「あ、ありがとう」
 なぜかジークが恭しくエスコートして椅子を引いてくれた。ミオは戸惑いつつもそこに腰をかける。
 向かいの席にジークが座ったところで二人は食事をすることに。
 ジークがフォークでジャガイモを挿し、それにたっぷりチーズに絡めて口へと運ぶ。
「熱っ。でもチーズがトロトロで美味しい!」
「でしょう? お昼の残りだけれどお肉もあるわよ」