「ドイル隊長、ご心配お掛けしました」
「リズから手紙は貰っている。熱は下がったのか?」
「はい、もう平気です」
 ドイルはジークを見たあと、リズに視線を向ける。

「連絡をくれたこと礼を言う」
「大したことはしていない」
 よっ、と言った感じでリズが手を上げる。どうやら二人は知り合いのようだ、とミオが見ているとドイルがミオに視線を移す。
「部下が世話をかけた。今度改めて謝礼をさせて貰う」
「そんな、いいです。大したことはしていません」
 目つきの鋭さと頬の傷に少したじろぐも、ドイルの態度は紳士的。ミオは胸の前で手を振りとんでもない、と伝えた。
「ジーク、その怪我なら馬には乗れないだろう。荷車を引いてきて良かった」
 ドイルはズボンに付着した血液を見て眉間に皺を寄せるも、すぐにあれ、と目を瞬かせる。大怪我をしているはずのジークが一人で立っている。さっきだってドイルを見るなり立ち上がったではないか。
 その視線に気づき、ジークがズボンを捲る。
「あぁ、この血痕ですか。大丈夫です、この通りもう殆ど治りました」
 ほら、とジークが片足で飛ぶものだからドイルはますます目を瞬《しば》たかせる。いったいどう言うことだ。説明しろ、と鋭い眼光でリズを見れば、リズは得意げにミオを指差した。
「神の気まぐれよ」

3.街へおでかけ

 異世界に来て一ヶ月。
 店に来るお客の紹介で、ミオはお肉や野菜の仕入れも始めた。お店は順調に固定客を増やし、今やランチどきには女性も訪れるように。
 初めて女性で店内が埋まったとき、ミオの胸に感慨深いものが。
(これよこれ、私が求めていたものは)
 楽しそうにおしゃべりに花を咲かせ、ハーブティーを飲む。店が一気に華やかになった気がする。
 少なくとも、どんよりとした顔色の悪い酔いどれがターゲットではなかったはず。
(でも、彼らがいたから軌道にのれたわけだし)
 結果よければ全てよし。今だって一番の売り上げはアーティチョークティーだ。
 リズの話では、「ミオの店で朝ハーブティーを飲めばいいから」と言って飲む酒の量が増えた客もいるとか。二人がかりでアルコール依存者を作っていたなら申し訳ないが、売上が伸びてウィンウィンともいえる。
(うん? いいのか? これで?)
 若干良心が痛む。