「それなら、洗濯したわよ。持ってくるわ」
 寸足らずの服を着た美少年に聞かれ、ミオは洗面所に向かう。洗濯機は乾燥機能付きだからすっかり乾いていた、でも。
「あー、やっぱり血は落ちなかったか」
 染み抜きなんてものないのでとりあえず洗剤を多めにして洗ったけれど、べったりついた血は茶色く変色し残っている。ジークにそれを手渡すと、目を大きくしたあと、短いズボンから出ている自分の脹脛を見た。
「えっ、この血、俺のですよね?」
 しかし、脹脛にはその血に見合うだけの傷がない。ジークはズボンをさらに捲り足を見て、服の上から体を触るもどこも痛みは感じない。
「これはいったい……」
「あー、そのことなら私から説明してあげるから、ミオ、朝食を用意してくれない? お腹すいちゃった」
「うん分かった。じゃ、お願いね」
 唖然とするジークをリズに任せ、ミオは朝食と店の開店準備にとりかかることに。
 自分から「神のきまぐれ」と説明するのは気恥ずかしいので、そこはリズがうまく説明してくれることを願うばかりだ。

 三人分の朝食の準備が終わったところで二人が降りてきた。ミオはカウンターに座った二人の前に食事を置いていく。
「おかわりあるからね」
「ありがとうございます」
「あら、ミオは食べないの?」
 店の開店まであと一時間。色々準備をしなくてはいけないので、食事をする時間はなさそう。
「私はすることがあるから適当に摘むわ。食べていて」
 ゆで卵を作りながら昨日のパンを千切って口に放り込む。オーブンではさっき入れたパン生地が膨らみ始めているけれど、小麦の匂いはまだしてこない。
(今日もアーティチョークティーがよく出るだろうし、事前にブレンドしたものを幾つか用意しておかなきゃ)
 テキパキと手際よく動くミオを見ながら二人はパンを口に運ぶ。あの部屋の持ち主とは思えない仕事ぶりだと関心しつつ呆れもする。
「そういえばリズ、騎士団への連絡はついたの?」
「ええ。店に来た騎士にジークのことを伝えると、エールを流し込んで駐屯地に戻っていったわ。そのあとまた店に戻ってきて、朝に迎えに来てくれることになっている」
 ジークが寝ていたので、無理に起こし夜中に運ぶより今夜は安静にした方がよいとの判断かららしい。既に説明を受けていたジークは、頷きながら話を聞いていた。