口をあんぐり開けるミオに対し、ジークは爽やかな笑顔を向けてくる。朝からなかなかの破壊力だ。
「リズさんから、ミオさんが助けてくれたと聞きました。ありがとうございます」
「どういたしまして。って私が聞きたいのはそうじゃなくて」
「それで、せめてものお礼にと部屋の片づけを。俺、六人兄弟の長男だから片付けは得意なんです」
 得意、とミオの唇が動く。
 いやいや、そういう問題では、と思いながらも善意の塊のような人懐っこい笑顔に返す言葉が見つからない。
 半ば呆然としつつクローゼットを開ければ、収納達人も真っ青というほど整理整頓されていた。
(あの部屋を見られたのは恥ずかしい)
 顔が熱を持つのを感じつつ、同時に感動すら覚える。あれをここまで片付けるなんて、一家に一台こんな弟がいて欲しい。顔だけじゃなく家事力までハイスペックだ。
「凄く綺麗になってる!! ありがとう」
「いえ、大したことは。あとはここだけ片付ければ……」
「待って! ベッドの下はだめ!!」
 ミオの言葉より早く、ジークの手がベッド下に滑り込み押し込まれた下着を摘み出した。
「……!!」
 一拍固まったのち、ジークは真っ赤な顔であわあわと慌てだす。
「うわっっ、すみません。すぐ片づけます」
「片づけなくていいから、手を離して!」
 ミオが真っ赤な顔でショーツを取り上げれば、それより赤いジークがいる。しかもダラダラと脂汗をかいている。
(いってみれば、たかが下着。それにここまで真っ赤になるなんて純朴すぎる)
 この反応が異世界では普通なのだろうか。
 下着一枚でここまで赤面するイケメン。
 いやいや、だっめだ。この発想はなんだか危ない。痴女まっしぐらになってしまう。
 ミオが焦りながら再びベッドの下にそれを押し込んだところで、布団がごそりと動き茶色い髪が現れた。
「……リズ? 何しているの?」
「あら、おはよう。そこの青年がお礼代わりに部屋を片付けるっていうからベッドに移動したのよ。そしたら眠気が襲ってきて。それにしてもミオの部屋があんなにも散らかっていたなんて。あなた仕事はしっかりしているのにプライベートは酷いのね、ちょっとはどうにかしなさいよ」
 もう返す言葉はとっくにない。二人のお母さんを前にしてミオは正座で頷いた。
「あの、ところで俺の騎士服はどこでしょうか?」