ゲームや漫画で見た姿を思い出す。二次元だと思うと何てことないけれど、本当に目の前に現れたら間違いなくパニックだ。
「あー、確かにそうだったかも。でも、それほど大きくは……」
「えっ? リズ見たことがあるの?」
 ミオはパチクリとしてリズを見上げる。
 魔王は魔王城から出なかったのでは。
 緑の瞳がツイと逸らされた。
「そこは、ほら、聞いた話とか?」
「聞いた話……」
「勇者の栄光を書いた物語があるらしいし……」
「あるらしい」
 らしい、とミオは繰り返し呟く。その言い方ではリズは読んでいないように聞こえるのだけれど。
「あ、あらやだ! もう辻馬車が来る時間だわ。じゃ、私は行くけれど本当に大丈夫?」
「うん、帰り寄ってくれるんでしょ?」
「もちろん。遅くなるから先に寝てていいわよ。鍵を借りてもいい?」
 ミオはハーブが並ぶ棚の下にある引き出しから鍵を出して手渡す。なんだか話をはぐらかされた気がしないでもない。
「ジークが寝ている部屋の向かいにある部屋にいるから」
「分かった。それじゃ、また後でね」
 リズは鍵をワンピースのポケットに入れ、店を出て行った。

 次の日の朝、ミオはリビングのソファで目が覚め、はっとした。
「どうしよう、眠っちゃった」
 リズに寝ていいと言われたけれど、もちろん起きているつもりだった。
 ジークの様子だって二回見に行った記憶がある。一度目ではリズが帰ってからすぐで、まだ熱が下がらず苦しそうだからおでこに冷却シートを張ったけれど、二度目には薬が効いてよく眠っていた。
 そこでミオも安心して昼間の疲れからソファでついうたたね、のつもりが朝になっていたのだ。
「そういえば、リズは来たのかな?」
 毛布代わりにしていたのは、クリーニングのタグがついたままの分厚いコート。数ヶ月前に受け取りに行ってそのままソファに置きっぱなしにしていた物だ。
 それを再びソファの背もたれに置き、立ち上がると隣の部屋へと向かう。
 小さくノックして、それから数センチ扉を開けてみると。
「……えっ、ジーク何しているの!?」
 すっかり顔色の良くなったジークが、こともあろうか、ミオの脱ぎ散らかした服を畳んでくれていた。
 部屋はすっきりと奇麗になっていて、雪崩れた服で閉まらなかったクローゼットも閉じている。
「おはようございます」
「……おはよう、ってこれはいったい?」