声が揃う。二人して目を合わせパチクリしてから再び傷を見ると、血は止まり傷は消えている。
「こんなことがあるなんて」
 リズは手のひらをグーパーさせたあと、ぶんぶんと腕を振ってみる。痛みも引き攣る感じも全くない。
「高級ポーション並よ」
「リズは高級ポーションを使ったことがあるの」
 確かこんな田舎にはロクな薬がないと言っていたような。
「あぁ、それは、……そうね、ちょっと、フフ」
 なんだか、いや、あからさまに歯切れが悪い。
 ミオとしてはもっと追求したいとこだけれど、そろそろリズの出勤時間だ。
「ねぇ、騎士団にジークのことどうやって知らせたらいいかな?」
「そうね、でも、この時間だと駐屯地までの辻馬車は走ってないのよ」
 騎士団がいるのは村の向こうで、そこは国境になっている。騎士は馬で移動するし、国境を越える人は自分の馬車か長距離馬車を雇う。そのため、国境まで行く辻馬車は日に数本。
 村まで辻馬車で行ってそこから歩けないわけではないけれど、今からだと日が暮れてしまう。
「私のバーの常連に騎士が何人かいるから、来たら伝えておくわ」
「ありがとう。国境に騎士がいるってことは戦争とか侵略に備えてるの?」
「それも無いとは言えないけれど、主には魔物から国を守るためね」
 魔物! その言葉にミオが目を丸くする。
 魔法がある時点でまさか、とは思っていたけれどやっぱりいるのか。
 急に顔色を悪くしたミオに、リズは苦笑いを浮かべながら背中を撫でてあげる。ゴツゴツとした感触が実に頼もしい。
「二年前に勇者が魔王をやっつけたから、もう大丈夫よ。時々生き残りの弱いヤツが現れるけれど、騎士がやっつけてくれるわ」
「二年前までは魔物があちこちに……」
「そうよ。大変だったんだから」
 はぁ、とため息をつくと、リズは温くなったアーティチョークティーを喉に流し込む。
 平和になったのはつい最近のことだから、ミオはいいタイミングで転生したとも言える。
(前の転生者、大変だったろうな)
 その状況で魔道具を作ったのだ。尊敬しかない。
「魔王ってどんな姿をしていたの?」
「魔王城から殆ど出ずに手下を動かすような奴だったから、見たことある人は少ないんじゃないかしら」
「そうなんだ。やっぱり龍のような鱗とか大きな角が生えていたり、あと、見上げるほど大きかったりしたのかな」