眉を下げ二階を見上げるミオに対し、リズは、はぁ、と息を吐いて首を振る。そういうことじゃないらしい。
「それもあるけれど、見知らぬ男と二人っきりなのよ。相手は騎士だからゴロツキなんかよりは信用できるけれど、周りに民家はないから何かあっても誰も助けに来てくれないわよ」
「あぁ、そういう心配ね。大丈夫じゃないかな? 子供を助けようとして溺れるような人よ」
 ミオとしては、善人の部類に入れて全く問題ないと思う。それに相手は見目麗しい二十代。アラサーなんて向こうからお断りでしょう。
 リズはうーん、と唸りながら最終的にはバーの帰りに寄る、ということで納得した。ジークの様子だとそれまで寝ているだろう、と考えてのこと。
「それで、あとで説明するって言っていたけれど、あの足の傷と、血に染まった服はどういうこと?」
「それね。えーと、私が初めに見た時は十五センチぐらい大きな切り傷だったの」
 ミオはこれぐらい、と左右の指でその大きさを説明する。
「それで、たまたま止血作用のあるハーブティーを持っていたから傷口にかけたところ、血が止まり傷口が少し塞がったの」
「そんな凄いハーブティーがあるの!? 再度確認するけど、これ、薬ではないのよね」
 目の前のティーポットをリズば指先で叩く。コンコンとガラスが鳴る音がする。
「あんなに即効性があるなんて普通なら考えられないわ。この世界の人達の体質に合うのか、他にも要因があるのか分からないんだけど」
「何か心当たりはないの?」
 そう聞かれ、ミオの頭に浮かんだのはあの金色の粉。ティーポットを揺するたびに光るので気になっていたけれど、異世界特有の何かだと受け流していた。おおらかにもほどがある。
 それを聞いたリズは、うーん、と腕組み口をへの字にして暫く宙を睨む。
「ミオ、ヤロウのハーブティー、私も作っていい?」
「リズが? いいわよ」
「ありがとう、ミオも一緒に作るのよ」
「私も?」
 リズの意図は分からないけれど、言われるがままティーポットを二つ用意し湯を沸かせティーポットに注ぐ。
 いつも作るのを見ているからか、リズの手際は初めてと思えないほど良い。ふんふんと、心なしか笑みを零しながら作っている。
「で、最後にティーポットを揺らすのよね?」
「そう、濃度が均一になるように」
 まずはリズがゆらりと揺らす。
 でも、何も起きない。