寝かしてあげたいけれど床に転がすわけにもいかず、そうなると手段は限られてくるわけで。
「階段は上がれる?」
「……はい」
「靴脱いで」
「分かった……」
 靴を脱ぐ習慣なんてこの世界になさそうなのに、素直にブーツを脱ぐ。
 意識が朦朧として言われるがまま動いているのか、無防備に人を信じるたちなのか。
 よろよろとして這うように階段を上がると、左にある寝室の扉を開けベッドの下まで騎士を運ぶ。
「これ、着替えて。タオルはこれを使ってくれたらいいから」
 ベッドを背に座り込んでしまったジークに、多分洗濯したと思うスエットを手渡す。それから、ごそごそと布の山を漁り、こちらも多分洗濯したっぽいタオルを見つけて膝の上に置いた。
「私、外に出ているから何かあったら声をかけてね」
「はい」
 ジークが頷くのを見て心配ながらも扉を閉める。一人で着替えれるか不安はあるけれど、手伝うの躊躇われた。
「その間にこっちをどうにかしよう」
 ずぶ濡れのジークが歩いたせいで、廊下も階段もびしょ濡れ。お風呂場に置いてあるバケツの底でくしゃっとなっている雑巾を手にし、とりあえず拭いていく。廊下、階段と順に拭き一階まで降りたついでに時計を見れば四時。思ったより時間が経っていた。
「四時」
 ボソリと呟いたミオの顔が、ハッと明るくなる。
「もうすぐリズが来る!!」
 そう気づくともう待ちきれなくて。バンと勢いよく店の扉を開け外に出ると夕陽を背負ったリズが歩いて来た。まさしく救世主。その勇ましい姿に有名なアニメのテーマソングがミオの脳内に流れる。
「あら、ミオ、お迎え?」
「リズ〜! 助けて。さっき川で騎士を拾って帰ってきて、今私のベッドで寝てるんだけれど」
「はい?」
 いつもと違う低音に、ミオはぴたりと固まる。恐る恐ると見上げれば、リズが慌てていつもの笑顔を貼りつけた。しかし頬は引きつっている。
「えーーと。男を拾った? で、ベッドにいる?」
(ちょっと待って、そう言われると私が痴女のようじゃない!)
 そこで初めて言い方が悪かったことに気づき、慌てて首を振る。
「違う違う。違うくないんだけど違う。川の近くで倒れていて、足を怪我していて、熱もあって。それでとりあえず連れて帰ってきて今二階の私の部屋にいるんだけれど、どうしていいか分からないの」
 身振り手振りをつけながら一息に捲し立てる。