初めて見た瞳の色はルビーのようでもあり、深紅の色が陽炎のように揺れる。
「そうか、溺れた子供を助けた所で、流れてきた木に頭をぶつけて……」
 ぼんやりとしながら呟くと、木がぶつかったであろう箇所を鈍い動作で撫でる。
(そういえば、今朝店に来た騎士たちは、大雨が降ったので異変がないか巡邏していると言っていたわ。ということは、彼は川上を巡邏中、子供を助けそのまま流されたってことかしら)
 まだ、多くを話す元気のない青年を見ながら、ミオはざっくりと状況を把握する。
 顔色は相変わらず悪く小さく震えているので、背に手を回し上半身を起こすと水筒を差し出した。
「水筒の中に暖かい飲み物が入っているわ。身体が冷え切っているからこれを飲んで」
「すまない」
 青年は素直に水筒を受け取ると、口につける。保温機能はそれほどないけれど、それでも冷えた身体には充分暖かく感じるだろう。少しだけ顔色が良くなったように見えた。
「ありがとう、冷えた身体が温まりました」
「立てる?」
「多分。俺はジークです。貴女の名前は」
「ミオよ」
 ミオはリュックを背負い、騎士を支えるようにしてどうにか立ち上がる。しかし、重い。
 思わずタタラを踏みそうになり必死で踏ん張るも、心もとないことこの上ない。
「家まで距離があるけれど、頑張って」
「……すまない」
 ジークも歩こうとしているけれど、やはり足は痛むようで引きずるようにしか歩けない。
 途中、何度も木の根っこに躓きながらなんとか森を抜けるも、冷たかったはずの騎士の身体は熱いほど熱を持ちだした。
(傷口から菌が入って熱が出たのでなればいいけれど)
 身体が冷えて風邪をひくのも不味いけれど、若いし体力はありそうだから命に関わる可能性は少なそう。細菌や化膿する方が危険な気がする。
(町に行けば医者はいるのかしら? 家に解熱剤ぐらいはあったはず)
 ミオは息を切らしながら熱で朦朧としてきた騎士の身体を支え、どうしたらよいかと考える。
(お医者さんが町のどこにいるかも分からないし、もしかしたら留守かもしれない。それに、呼びにいくとしたらその間この人を一人にすることになってしまう)
 でも異世界に来たばかりのミオには、良い案が浮かばない。

 なんとか裏庭を突き抜け鍵を開け裏口から店の中に入るも、そこには椅子とテーブルしかない。