騎士の傍に座り濡れて張り付いた髪をどけると、びっくりするぐらい整った顔が現れた。この世界の顔面偏差値高すぎ。でも、その顔は青いを通り越して白く唇は紫色で、なまじっか奇麗なだけにまるで彫刻のように見える。
「呼吸はしているから、気道の確保はしなくていいわよね」
 となれば、次にすべきは止血のはず。鞄からタオルを取り出し傷口より少し上をぎゅっと縛る。多少流れる血量は少なくなったけれど、完全に血が止まらない。
「どうしよう、止血、止血」
 何かないかと鞄を漁るも、救急道具など持ってきていない。包帯ぐらい入れてくれば良かったと後悔したところで、こつんと指に水筒が当たった。
「そうだ、このハーブティー、もしかして効くかもしれない」
 水筒の中身はヤロウというハーブをメインに、数種類をブレンドしたもので、生理痛によく効く。諸事情により今日はあえてこれにしていた。
 ヤロウは、細かくギザギザした葉に白い小さな花を沢山つける。古代ギリシャ時代では「兵士の生薬」と言われ、揉んだヤロウを直接傷ぎ口に塗って止血剤として使われていたとも。とはいえ、即効性までは期待していない。でも、この世界の人達にハーブがよく効くのも事実。
 半ばやけっぱちのような気持ちで、水筒の蓋をあけ中身をチャプンと振ってみる。
(どうか効きますように)
 こうなったら神頼みだと、血が止まることを願う。
 直接かけると熱いかも知れないので、蓋にハーブティーをいれ軽く揺するって冷ますと、一瞬だけれどきらりと光った。
 しかし、焦っているミオはそのことに気が付かない。
 少しでも効き目があることに期待しながら、傷口にハーブティを垂らした。
 蓋のハーブティーを全て傷口にかけるも、何も変わらない。やっぱり駄目かと諦めかけた時、ぱっくり開いた傷口が少しずつ塞がっていくではないか。
「どういうこと、いくら何でも効果がありすぎるんじゃない?」
 ミオが思った以上の効き目に唖然としているうちに、血は止まり深かった傷口が少し塞がった。

「うーん、……ここは?」
 眉間に皺を寄せながら騎士が僅かに目を開けるも、瞳孔は揺らぎ焦点は合っていない。
「川岸よ。あなた、川の近くで倒れていたの」
 騎士はミオの声に反応するかのように重たげに視線を向ける。思ったよりもあどけない目元、まだ二十代前半のようだ。
(綺麗な赤色の瞳)