「どういたしまして。それから、私の朝食もお願い。ハーブティーはカモミールでね」
「ジャムはどうする? 今日はストロベリーかアプリコットよ」
「じゃ、アプリコットで」
 リズは夕方、出勤前にミオの店に立ち寄りアーティチョークティーを飲むので二日酔はなし。だから、朝はカモミールかミントティーを選ぶことが多い。
 リズの紹介で、砂糖や牛乳も手に入るようになった。村から町へと荷馬車で運ぶついでに、ミオの店にも立ち寄ってくれるのだ。
 リズの前に朝食を置くと、ドアベルがカラリとなった。
 「いらっしゃいませ」と言いかけたミオの口が途中で止まる。入って来たのは体躯の良い、騎士のような服装の男が二名。いつも来てくれる客層とは雰囲気が明らかに違う。
 濡れた手をエプロンで拭きながら彼らのもとへ向かい、恐る恐るといった風に要件を伺う。
「あの、どうされました?」
「昨晩大雨が降ったので、困ったことはないかとこの辺りを巡邏しています。貴女はこのお店のオーナーですか?」
 はい、とミオは頷く。確かに昨晩は激しい雨が降っていて、怖くて雨戸を閉めていつもより早く寝た。
 ミオの返事に騎士たちは少し好奇の色を浮かべ顔を見合わせるも、すぐに硬い表情に戻る。その一瞬の表情が「この人が『神のきまぐれ』?」と言っていたことに、ミオは気まずさを覚える。なにせ前回の「神の気まぐれ」の功績が大きすぎて、おいそれとその名を名乗れない、名乗りたくない。
「特に変わりはありませんか? 木が倒れたとか、崖が崩れたとか」
「私が知る限りありません」
 ミオの行動範囲は狭い。店の周辺と森ぐらいで、森には起きてからまだ行っていない。とりあえず分かる範囲で答えれば、騎士たちは「何もなければこれで」とあっさりと返っていった。
「リズ、さっきの人達は騎士?」
「そう。村の向こうが国境になっていて、そこに騎士の詰所があるの。町を治めている領主様の管轄ではなく国に所属しているんだけれど、大雨の後とかはああやって巡邏してくれるのよ」
 ボランティアで管轄外の仕事もしてくれているらしい。
 ミオの存在を知っていたということは、噂が騎士の詰所まで広まっているということ。ミオは知らないが、騎士達は今度の「神のきまぐれ」が何をもたらしてくれるのか、こっそり賭けていた。知らんがな。

 朝の慌しさも過ぎ去り、ミオは食器を洗う。