ミオはオーブンから焼き上がったばかりのパンを取り出す。ほわほわと食欲をそそる香ばしい匂いが広がり、開けた窓から外へと流れていく。もうすぐ沢山の卵を持ったリズも来るはずだ。
 初めてハーブティーを飲んだ次の日の朝、リズは切れ長の瞳を大きくし、勢いよく扉を開け駆け寄ってきた。
「あのハーブティー凄いわ! こんなに清々しい朝は久しぶりよ!!」
 サンドイッチの入ったバスケットをカウンターに置くなり、ミオの手をぶんぶん握って最後にはハグ。逞しい胸板にほっぺをムニっとくっつけながら、ミオは身体の骨が軋む音を初めて聞いた。
 ハーブがリズの体質にあったのか、ハーブを口にしたことがない異世界の人だから効き目が強いのかは分からない。ただ、常に二日酔いに悩まされていたリズにとってそれは画期的なこと。
 さっそくリズは店に来た客に、ミオのハーブティーの凄さを熱く語った。それはもう、こんこんと。客の中には村から辻馬車で町に通う人も多くいる。突然現れた店を不思議に思っていたところに、二日酔いに効くハーブが飲めると聞いてこれは行かなくては、と皆が思った。
 何せ「神のきまぐれ」の店だ。凄いことが起こるのでは、と無駄に期待値が上がる。ミオが聞いたら間違いなく卒倒するだろう。
 そんなわけで、朝、普段より一本速い辻馬車に乗った人達がミオの店の前で降りるように。
 突然現れた、むさっとした男達にミオは後退りするも、すぐに持ち前の適応力を発揮した。
 二日酔いに効くハーブティをアーティチョークティーと名付け売り出したのだ。
 初めの数日はハーブティだけだったけれど、客の中に小麦粉を町に卸している人がいると知り、売ってもらえないかと交渉した。
 それからは、朝食セットとして焼き立てパンとゆで卵、ジャム、お好みのハーブティをセットで売りだすことに。卵はリズから買って、ジャムの材料は裏庭の向こうにある森で木の実を摘んで作った。
 これが当たって、一日に三十食ほど売れることに。
「おはよう、産みたて卵持ってきたわよ」
 リズが沢山の卵が入った木箱を軽々と肩に乗せ持ってきてくれた。卵だけでなく野菜も少し入っている。これはお店で出すのではなくミオの食事だ。
「ありがとう。これお代金」
 大きな手のひらに小銀貨数枚を手渡す。お客様も来てくれるようになったので、仕入れ代はその都度支払うことに。