美味しくなりますように、とかリラックスしてもらえますように、とかお客様のことを思いながら胸の内で唱えるのだ。
 今回は、「二日酔いになりませんように」、そう願いながらポットを回した。その時だ、いつもと違う変化にミオは手を止める。
「あれ?」
 突然、金色の粉がティーポットの中を舞ったかと思うと、キラキラ輝きすぐに砂糖のように溶けていった。
「どうしたの?」
「えーっと。ううん、なんでもない」
 なんだったのだろ、と目を瞬かせるも、そこにあるのはいつもと変わらないハーブティ。
 不思議に思いながらも(見間違いよね)と結論付け、ハーブティーを温めたカップに注ぐ。
 それをソワソワしながら待つリズの前に差し出した。
「はいどうぞ、まずは匂いを嗅いでみて」
 リズは手に取ると言われたとおりに鼻先をカップに近づける。
「あっ、スッとするような爽やかな匂いがする」
「それは多分ミントを入れたからだわ。熱いから気を付けて飲んでね」
「ええ。味は、……苦い! 確かに苦味がつよいわ。でも、うん、……この味嫌いじゃない」
 苦みをどう思うか心配だったけれど、リズは気に入ったようで一口、もう一口と飲む。
 でも、ハーブティ全てが苦いと思われても困るので、出来上がったフレッシュカモミールティーもカップに入れリズの前に置いた。
「こっちは飲みやすいと思うわ。甘味が足りないならお砂糖もどうぞ」 
 砂糖が入った小瓶をカップの隣に置く。リズは、同じように匂いをかいだあと、カモミールティを一口。
 すると、驚いたように目を丸くし、長いまつ毛をパチパチさせた。
「全然味が違う! こっちは少し甘みと酸味があって、匂いも果実みたいでとっても飲みやすいわ」
「使ったのがフレッシュハーブだから、ドライハーブより清々しい香りがするのが特徴よ」
 甘い香りが口の中に広がるのを楽しむようにリズは一口、もう一口。それから再び苦味の強いハーブティーも手にし、飲み比べるように交互に口に運ぶ。
 その飲み方は風味が変に混ざりそうで、ミオとしてはちょっと気にはなる。
 でも、大切なのは楽しんで貰うことで、そう思えば飲み方なんて些末なことだ。
 ミオは嬉しそうなリズを見ながら、もしかしたら異世界でもハーブティーカフェが出来るのでは、と思った。
 リズの隣に座り、カモミールティーを飲みながらミオはふと思う。