「湯通しして温めたティーポットにブレンドしたハーブを入れて、沸騰したお湯を注ぎすぐに蓋をする。そしてこのまま数分蒸らす」
 蒸らす時間は諸説あり、葉や根を使うかにもよっても変わる。このブレンドならと、ミオは引き出しから五分の砂時計を出してティーポットの横に置いた。
「砂時計が全て落ちたら出来上がり。蓋についた蒸気の雫には特に成分が詰まっているから、それを中に落とすように蓋をあけるの」
 リズは真剣な瞳で、サラサラと落ちる赤い砂時計の砂を見つめる。ついでにと、ミオは自分用にもハーブティーを入れることに。開店に備え仕入れたフレッシュのジャーマンカモミールを使う。
 水道の蛇口に指を当て出てきた水をボールに貯めて、その中で丁寧に葉を洗って小さく千切る。それを、先程と同じように温めたティーポットにティースプーン山盛り一杯を入れ、湯を注ぎ蓋をする。こちらは蒸らすのは三分、緑の砂時計をテーブルに置いた。
「そっちの方が美味しそうね」
 じわりと緑色になってきたティーポットをリズが恨めしそうに見る。確かに初心者に飲みやすいのはこっちの方。
「こっちも飲んでみる? 二日酔いには効かないけれど」
「飲む。どんな効果があるの?」
「沈静効果があるから不眠に効いたり、あとは胃炎や冷え性にもいいわよ」
 ふーん、というリズの口角が少し上がり楽しそうだ。色っぽくも格好良くもあり、美人は性別関係なく美人なのだと思う。
「ミオは薬師なの?」
 そんなことを考えていたので、唐突な質問にミオは目をパチリとする。
 それから、先程の説明を聞いたならそう思っても仕方ないか、と気づいた。
「違うわ。ハーブティーに薬のような即効性はそれほどないわ。二日酔いを防ぐ効果はあるけれど、完全に防げるわけじゃない」
 体質改善とか、気持ちを落ち着かせるのに用いることが多い。あとは嗜好品として、好きな匂いや味を楽しむものだ。
「あっ、砂時計が全部落ちた。えーと、蒸気をポット内に落とすように蓋をとるんだっけ?」
「そうそう、それから葉を取り出して。入れっぱなしだと苦味が出過ぎちゃうから」
 リズが慎重に蓋を開けたところで、ミオがティーポットの内側にある茶漉しごと葉を取り出す。そのあと濃度が均一になるようにティーポットを軽く揺らす。
 これはミオだけのマイルールだけれど、揺らすのは五回と決めている。