――場所は自宅。
19時過ぎに萌歌が帰宅したので、私は玄関扉の開閉音を聞き取った後に部屋を飛び出して玄関に向かった。
いま味方がいないなら、これから作っていけばいい。
この孤独感を打ち破るには、自分の気持ちを切り替える他なかった。
「萌歌、おかえり。あのね、大事な話があるの」
「……なに?」
「速報っ!! 実はね、パラレルワールドに来たのは私たちだけじゃなかったの。同じクラスの桐島くんも昨日ここへ来たんだって。偶然でしょ!」
私は仲間がいることを知って喜んでくれると期待していたが……。
「ふーん……」
彼女は玄関で靴を脱ぐと、眉一つ動かさずに自分の部屋に足を向けた。
相変わらず無関心というか、興味がないというか。
誰もが飛びつくような吉報のはずが空回りに。
元の世界の仲間に出会えて嬉しいとか思わないのかな。
「もしよかったら、今後について三人で話し合わない?(桐島くんがイエスという可能性は低いけど……)一つでも案が増えれば1日でも早く元の世界に帰れるかもしれないし」
この時の私は、萌歌も同じように早く帰りたいと思っていた。
ところが、長い髪をはらりと揺らした後に返ってきた返事は……。
「あたしは帰らないよ」
「えっ」
「今日ダンス部で、あるオーディション用のグループ決めをしたの。大切なオーディションだし、あたしが抜けたらみんなに迷惑をかけてしまうから、あんたが桐島と二人で帰ればいい」
ここに残る決断だった。
予想外の展開を迎えた途端、動揺の色が隠しきれなくなる。
「そんな……。でも、それは元の世界に帰ってからまた挑戦すればいいんじゃない?」
「あんたにはわかんないだろうけど、今回は憧れの【DATTY】の一員になれるチャンスが詰まった特別なオーディションなの。募集人数は二人。絶対に外せないのよ」
「えっ!! 【DATTY】って韓国で有名な女性ダンスグループの……」
「夢なの。ダンスグループに入って活躍することが。あたしは中学からダンスを始めたからスタートが遅い分、人一倍練習を重ねてきた。そして、その夢はいまは目の前に。すでに活躍しているグループに追加加入するいうことは自分を売り込む近道なの。このチャンスだけは絶対に手放したくないから」
と、やや怒鳴り気味にそう告げると、部屋の中へ姿を消していった。
無関心な様子に目の前が真っ暗になった。
元の世界に戻りたくないのは桐島くんだけじゃないと思い知らされたから。
帰りたいのは、この世界へ来た三人のうちの私一人だけ。
もし自分だけが元の世界に戻ったとしても、果たしてそれが正解かどうか自信がない。