――場所は自宅。
夕方に部屋のデスクで図書室で借りた本を開きながらパソコンで検索していると、扉をノックした後に「入るよ」と告げられて扉が開かれた。
目を向けると、そこにはTシャツにジャージを履いている萌歌の姿が。
部屋を訪れてくるなんて珍しいと思い、回転椅子ごと彼女の方に体を向けた。
「どうしたの?」
「あの……さ」
「うん?」
「先週はごめん……。きっとあたしのせいだよね。あんたが元の世界に帰れなかったのは……」
謝罪の言葉とは裏腹に、むくれた態度のままボソッと告げられる。
でも、私は不器用ながらも気にかけてくれたことが嬉しかった。
「それがゼロとは言いきれないけど、戻らなくて正解だったと思う」
「どうして?」
「自分が解決しなきゃいけない問題がはっきりしたから」
「なにそれ……。でも、1年に一度のチャンスだったんでしょ。それがあたしのせいで台無しになったんじゃない?」
「確かにチャンスを逃してしまったけど、確実にその方法で帰れたかわからないし。次はまた別の方法で帰るよ」
元の世界に帰れる方法が見つかったり、急に帰れなくなったり。
それによって気持ちの浮き沈みがセットになっていたけど、彼女の殻が少しずつ剥がれてきているのを実感してるから判断を誤らずに済んで良かったと思ってる。
「なら、いいけど。じゃ……」
「待って!」
「……」
「やっぱり……さ、私と一緒に元の世界へ帰らない? 生まれ育ったところはたった一つしかないし、私自身も一緒に帰りたいと思ってる」
ノーと言われるのはわかっている。
でも、ここは私たちが暮らす場所じゃないし、私も萌歌のことが心残りになっているから。
「それは無理」
「萌歌っ!!」
「ごめん……」
彼女は私の意見に蓋をして、そのまま部屋を出ていった。
何度伝えてきても、なかなか伝わらない思い。
でも、諦めた途端に関係は終わってしまうから譲れない気持ちが先行している。
――それから10分後。
部屋を出ると、萌歌が靴を履いて外に出ていくところを見かける。
いまはもう20時過ぎ。
こんな時間にどこへ行くのかと思って後を追うと、到着した先は学校だった。
彼女は持参したスポーツバッグを近くに置くと、スマホで大音量の音楽を流してからダンスを始めた。
ナイター照明はまるでステージ照明のよう。
キレのある力強いステップに、スラリと伸びる指先。
リズミカルに動く体に、生き生きとした表情。
同じ女性から見ても、彼女のダンスには圧倒させられてつい目が釘付けに。
普段は刺々しく突っかかってくるけど、踊っているいまはそんなことさえ忘れさせてしまうほどしなやかで美しい。
彼女の魅力に吸い寄せられている私は、時の流れを忘れてしまうくらい夢への熱意を目の当たりにしていた。