――それから私たちは、再び図書室で調べ物をする日々が始まった。
 佐神先生は司書からその様子を聞いたようで、時より図書室へ足を向けてくれた。
 でも、本を開くたびに後悔する。
 やっぱり桐島くんをこの世界に残してしまったことを……。

「後ろを向いていてもキリがないよ」

 自責の念に駆られてことに気づいたかのように、佐神先生は向かいの席から声をかけてきた。
 私は思わず苦笑いをする。
 
「そっ、そうですよね! あはは……。落ち込むのが習慣になってしまったみたいです」 
「帰ることだけを考えよう。君たちが何かのきっかけでこの世界に来たように、帰る時も何かのきっかけでひょいと帰れるような気がするんだよね」
「俺もそう思う。指定された日時にグリーンフラッシュを浴びながら帰りたい気持ちを叫ぶ、じゃなくて。もっと簡単に帰れる方法があるんだと思うんだよね」
「調べていればいつか出てくるかなぁ。その簡単に帰れる方法が」
「本はまだ六冊程度しか読めてないから、その可能性はあるかも。……あ、佐神先生。また石井教授に話を聞いてくれると助かります」
「わかった。別の人にも声をかけてみるよ」

 ことが思うように進まなくていっときは気持ちがバラバラになってしまったけど、私たちは再び一つの目標に向かって集結した。
 小さな情報を交換し合ったり、資料を元にパソコンやスマホで調べたり。
 気づけば梅雨が開け、夏休みまであと一歩手前になっていた。


 ――そんなある日。
 図書室の利用終了時刻を迎えて桐島くんと一緒に扉の外に出ると、廊下の壁に寄りかかりながら腕を組んで立っている心葉の姿があった。
 彼女は私たちの前に立つと、少し気まずそうに口を開く。

「あのさ……。いままで秘密にしていたけど、実はもう一つの世界に帰れる方法を入手できるかもしれない」

 思わぬ吉報が届けられた途端、私と桐島くんは食い入るように前へ。

「それ、どーゆーこと?」
「母親が科学研究所に勤務しててね。昔、パラレルワールドに人を送り出したようなことを言ってたの」
「……それをどうしてすぐに教えてくれなかったの?」
「私自身が信じてなかったの。パラレルワールドなんて言われても普通は興味が薄いでしょ。それに、母親からは人から白い目で見られる可能性があるからって口止めされてたし」
「へぇ〜……。まさかこんな近くに情報源が眠っていたなんてびっくりだな」

 それを聞いてから私は体の震えが止まらなくなった。
 隣で異変に気づいた桐島くんは私を見る。

「堀内……、どした?」
「……れし」
「えっ?」
「うっ、うれしぃよぉぉお〜〜っ!! 心葉ぁぁ〜っっ。ホントにホントにありがとぉ〜〜!!」

 私は両手をガバっと大きく開いて半目涙のまま心葉を抱きしめた。
 だが、彼女は困惑の表情を浮かべる。

「ちょ、ちょっと……。急に抱きつかないでよ」
「うっ、うっ……。ごめーーんっっ」

 嬉しさが勝ってしまったせいで、この世界の心葉とは仲が良くないことをすっかり忘れてた。

「じゃあ、心葉のおばさんに話を聞けば解決するかもしれないってことだよな」
「秘密にしてって言われてるけど、堀内さんたちが困ってるのを知ったらさすがに教えてくれると思う」
「良かった。ねぇ、桐島くん。私たち帰れるかもしれない!」
「本当に良かった。1年待たなければ帰れないと思っていたのに……」

 私たちは安堵によって深い溜め息が漏れた。
 しかし、そのもう一つの方法が、さらなる波紋を生み出すことになるなんて……。