――夜20時。
 萌歌の件でもやもやしていた私は、自宅のベッドに転がりながら桐島くんに電話をかけた。
 以前なら心葉に悩みごとを吐いていたけど、いま一番に頼れるのは彼しかいない。

「もしもし、桐島くん?」
『どした?』
「うん、あのね…………。私、正解がわからなくて……」
『正解って? 一体、何の話?』
「さっき、萌歌にパラレルワールドから帰る方法が見つかったと伝えたら、『この世界で生きていく』って言われたの。萌歌にとって大事なオーディションがあるからって。私はこの世界の人間じゃないから、一緒に帰ったほうがいいと思うんだけど……」

 パラレルワールドへ来てから、一度も帰る姿勢を見せない萌歌。
 目前に夢が迫っているせいか、この世界での活躍を夢見ている。
 私には彼女のように没頭できる夢がない。
 だから気持ちがわからないのかもしれないけど、元の世界で生まれた頃から経験してきたことは何よりも代えがたい宝物だと思っている。
 
『堀内はそう思うかもしれないけど、もし世界が並行してるならこのままでもいいんじゃない?』
「どうして? 元々はこの世界の人間じゃないのに」
『確かにそうかもしれないけど、元は一つの世界だった。ここは全てが逆だから不便を感じることが多いかもしれないけど、それ意外は同じだから自分で選ばせてやってもいいんじゃないかな」
「でも、元の世界に送り込まれた萌歌もきっといるだろうし……」
『もし存在したとしても、向こうの世界の萌歌もここに戻りたいと思ってるかわからないよ』
「えっ」
『堀内が向き合ってるのはこの世界にいる萌歌だから、本人の気持ちを大事にしてやってもいいんじゃない?』 

 説得をされても首を縦に振ることが出来なかった。
 確かに彼が言うことは正解かもしれない。
 萌歌の幸せがここで得られる可能性があるのだから。
 でも、生まれ故郷はここじゃないから、身を置き去りにしてしまうのはどうも納得がいかない。