中学二年生の夏休み、マンションの敷地内の草むしりがおこなわれた。朝なのにうだるような暑さで、セミがさわがしく鳴いていた。

ふと空を見あげると、半円の月がクッキリ浮かんでいた。昼間の月が珍しかったわけじゃない。その月が、青空と同じくらい青い色に染まっていたのだ。

一緒にいた友だちにも伝えたけれど、碧人以外の子は興味を持ってくれなかった。

ふたりとも当時はスマホを持っていなかったので、私の部屋にあるパソコンを使い調べた。

けれど、いくら検索しても望む答えは見つからなかった。

青い月は『ブルームーン』と呼ばれ、ひと月 に二回満月になる状態 を指す言葉。実際に青く見えるわけじゃない、と記してあったし、そもそも私たちが見たのは、半月だった。

月が青く見える現象を呼ぶ名でもあるようだけど 、火山の噴火や(いん)(せき)の落下の際に生まれるホコリやチリの影響によって起こるらしく、極めて(まれ)な事象だとも記してあった。

さらに調べを進めていき、『青い月の伝説』というタイトルの絵本があることを知った私たちは、図書館へ直行した。

てっきり絵本コーナーにあるかと思ったけれど、その本が置かれていたのは『民俗学』と書かれた棚だった。難しいタイトルの専門書がぎゅうぎゅうに詰まっている一角で、『青い月の伝説』の絵本を見つけた。

油絵みたいなタッチで描かれた月の表紙。碧人はその本に書かれてある文章に興奮していた。

『あの青い月は、俺たちを伝説へ導いてるんだよ!』

図書館の人に叱ら れても大声ではしゃぐ碧人。銀河のようにキラキラ輝く瞳を見た瞬間、言いようのない胸の高鳴りを覚えた。

ただの友だちじゃない。私はずっと碧人のことが好きだったんだ……。

考えるよりも先に、その想いが体にするんと入りこんできた感覚。

その日はじまった片想いは、今もまだ続いている。