サーモンパイを肴に散々ワインを飲んだ酔い覚ましに、女魔法使いのハスミンはココ村海岸で夜のお散歩をしていた。
彼女は華奢で可憐な人形のような外見をしている。
純金色の金髪の先を緩く巻いてポニーテールにまとめて、魔女らしい黒い先折れ帽子から毛先の尻尾がはみ出して夜風に揺れている。
これまた真っ黒な長いローブ姿で、「夏なのに暑くないのか?」とよく周囲に心配されるがノープロブレム。
小さな氷の魔石をいくつも内側に仕込んでいて、中は涼しく快適なのだ。
そもそも、“魔法使い”のハスミンは武器が杖で、補助に魔石や魔導具などを使う。
アイテムボックスにもなっている腰回りの光の環とは別に、ローブの表裏のポケットにたくさんの仕込みをしているのだ。
いつ何時、何があるかわからないから常にフル装備。
ローブ自体にも強烈な防御付与をかけている。
魔法使いとしても、環使いとしてもハスミンに油断はない。
はずだった。
「ヨーロオオオオーン〜♪ ヒャッホーウ! ウーイ……あたッ!?」
鼻歌を歌いながらへろへろ〜とした千鳥足で砂浜を歩いていたら、何かに足を取られてコケッといってしまった。
「やあん! 何よこれ!」
手のひらの上に魔力で明かりを作って、よくよく見てみると、それは砂で作られたお魚さんだった。
大きさはハスミンの膝の高さぐらいまでで、四角い台座の上に、ハスミンが軽く両腕を広げたぐらいの長さで作られている。
目玉がうるうると大きい。ということはこの間、ルシウスが金魚さんっぽくて可愛いと喜んでいたキンキだろう。
そう、ルシウスがお砂遊びで作った砂のオブジェだ。
「もうっ。あの子ったら魔法樹脂で固めたわね!? ……崩しちゃったら怒るかなあ」
よくできている。あの子供はなかなか器用だ。
自信作だから保存しておきたかったのだろう。
とはいえ、いつもおうちにお魚さんたちを送るときほど強固に固めているわけでもないらしい。
端から少しずつ砂が崩れてきている。
時間経過で砂に還るような設定にしてあるようだ。
「んん?」
手のひらの明かりを消して、ハスミンは砂のお魚さんをまじまじと見つめた。
お魚さんはうっすらと、ネオンブルーに発光している。
「………………」
海岸、砂浜の上をざっと見回してみた。
まばらに、同じようにネオンブルーに光っている箇所がある。
砂のキンキから一番近いところまで向かってみると、そこには半分以上崩れかけた砂の城があった。
これも魔法樹脂でゆる〜く固められている。
上手く岩場の近くに配置されていて、毎日の戦闘の邪魔になりにくい場所に作られている。
「そういえば、お魚さんモンスターの出現数、あたしが最初に来た頃より減ってる……わね?」
ハスミンが行方不明になった友人を探して、ここココ村支部に来たのは今年の初め頃。
それから半年ほど経ってルシウスが派遣されてくるまでは、本当に人員的にも戦力的にもギリギリで討伐に対処していた。
そして、少しずつだが巨大なお魚さんモンスターたちのサイズがダウンしてきている。
なるほど、ルシウスの持つ聖なる魔力の痕跡が、ここココ村海岸を浄化しているわけだ。
「聖なる魔力で浄化されるだけの何かが、ここにはあるってことかあ。厄介ねえ」
元々、ココ村海岸沿いにある冒険者ギルドのココ村支部とは、美しい海を求めてバカンス目的でやってくる冒険者たちのための支部だったと聞く。
数は少ないが貸し別荘や民宿もあって、今のような夏の時期には、町のほうから飲食店などが海の家を浜辺で営業していたそうだ。
海の魔物は元から出没する地域だったが、以前は今ほど数が多くもなければ、巨大でもなかったと聞く。
それに、陸まで上がってくる魔物はほとんどおらず、大部分は沖まで出なければ遭遇しなかったから、海水浴などを楽しめるバカンス対応の支部だったとのこと。
それが約一年前、今のギルマスやサブギルマス、受付嬢の三人が赴任してきて前任者たちと交代するのと前後して、いきなり海から巨大化した魔物が陸まで上がってくるようになった。
それで慌ててギルマスのカラドンらは、ゼクセリア共和国の首脳部に支援を要請したが、急な人員や物資の増援は難しいとの解答。
困り果てて仕方なく、彼らの伝手を頼って縁のある国々に救援要請を出したら、やってきたのは何とまだ幼さの残る魔法剣士の少年ルシウスたったひとりだけ、というオチだ。
「でもあの子って、あんまり聖なる魔力持ちっぽくないのよね」
ルシウスの場合、人懐っこく明るい性格だが、ああ見えてものすごく物事の好き嫌いが激しい。
ハスミンの師匠筋にも聖女がいるが、もっと超然としている感じだ。全然違う。
「それに、お兄さんを慕うあの感じ。可愛らしいけど、すごい執着」
何にせよ、まだしばらくはハスミンもココ村支部から離れられない。
その間に、ルシウスを見定めてみようと思っている。
彼女は華奢で可憐な人形のような外見をしている。
純金色の金髪の先を緩く巻いてポニーテールにまとめて、魔女らしい黒い先折れ帽子から毛先の尻尾がはみ出して夜風に揺れている。
これまた真っ黒な長いローブ姿で、「夏なのに暑くないのか?」とよく周囲に心配されるがノープロブレム。
小さな氷の魔石をいくつも内側に仕込んでいて、中は涼しく快適なのだ。
そもそも、“魔法使い”のハスミンは武器が杖で、補助に魔石や魔導具などを使う。
アイテムボックスにもなっている腰回りの光の環とは別に、ローブの表裏のポケットにたくさんの仕込みをしているのだ。
いつ何時、何があるかわからないから常にフル装備。
ローブ自体にも強烈な防御付与をかけている。
魔法使いとしても、環使いとしてもハスミンに油断はない。
はずだった。
「ヨーロオオオオーン〜♪ ヒャッホーウ! ウーイ……あたッ!?」
鼻歌を歌いながらへろへろ〜とした千鳥足で砂浜を歩いていたら、何かに足を取られてコケッといってしまった。
「やあん! 何よこれ!」
手のひらの上に魔力で明かりを作って、よくよく見てみると、それは砂で作られたお魚さんだった。
大きさはハスミンの膝の高さぐらいまでで、四角い台座の上に、ハスミンが軽く両腕を広げたぐらいの長さで作られている。
目玉がうるうると大きい。ということはこの間、ルシウスが金魚さんっぽくて可愛いと喜んでいたキンキだろう。
そう、ルシウスがお砂遊びで作った砂のオブジェだ。
「もうっ。あの子ったら魔法樹脂で固めたわね!? ……崩しちゃったら怒るかなあ」
よくできている。あの子供はなかなか器用だ。
自信作だから保存しておきたかったのだろう。
とはいえ、いつもおうちにお魚さんたちを送るときほど強固に固めているわけでもないらしい。
端から少しずつ砂が崩れてきている。
時間経過で砂に還るような設定にしてあるようだ。
「んん?」
手のひらの明かりを消して、ハスミンは砂のお魚さんをまじまじと見つめた。
お魚さんはうっすらと、ネオンブルーに発光している。
「………………」
海岸、砂浜の上をざっと見回してみた。
まばらに、同じようにネオンブルーに光っている箇所がある。
砂のキンキから一番近いところまで向かってみると、そこには半分以上崩れかけた砂の城があった。
これも魔法樹脂でゆる〜く固められている。
上手く岩場の近くに配置されていて、毎日の戦闘の邪魔になりにくい場所に作られている。
「そういえば、お魚さんモンスターの出現数、あたしが最初に来た頃より減ってる……わね?」
ハスミンが行方不明になった友人を探して、ここココ村支部に来たのは今年の初め頃。
それから半年ほど経ってルシウスが派遣されてくるまでは、本当に人員的にも戦力的にもギリギリで討伐に対処していた。
そして、少しずつだが巨大なお魚さんモンスターたちのサイズがダウンしてきている。
なるほど、ルシウスの持つ聖なる魔力の痕跡が、ここココ村海岸を浄化しているわけだ。
「聖なる魔力で浄化されるだけの何かが、ここにはあるってことかあ。厄介ねえ」
元々、ココ村海岸沿いにある冒険者ギルドのココ村支部とは、美しい海を求めてバカンス目的でやってくる冒険者たちのための支部だったと聞く。
数は少ないが貸し別荘や民宿もあって、今のような夏の時期には、町のほうから飲食店などが海の家を浜辺で営業していたそうだ。
海の魔物は元から出没する地域だったが、以前は今ほど数が多くもなければ、巨大でもなかったと聞く。
それに、陸まで上がってくる魔物はほとんどおらず、大部分は沖まで出なければ遭遇しなかったから、海水浴などを楽しめるバカンス対応の支部だったとのこと。
それが約一年前、今のギルマスやサブギルマス、受付嬢の三人が赴任してきて前任者たちと交代するのと前後して、いきなり海から巨大化した魔物が陸まで上がってくるようになった。
それで慌ててギルマスのカラドンらは、ゼクセリア共和国の首脳部に支援を要請したが、急な人員や物資の増援は難しいとの解答。
困り果てて仕方なく、彼らの伝手を頼って縁のある国々に救援要請を出したら、やってきたのは何とまだ幼さの残る魔法剣士の少年ルシウスたったひとりだけ、というオチだ。
「でもあの子って、あんまり聖なる魔力持ちっぽくないのよね」
ルシウスの場合、人懐っこく明るい性格だが、ああ見えてものすごく物事の好き嫌いが激しい。
ハスミンの師匠筋にも聖女がいるが、もっと超然としている感じだ。全然違う。
「それに、お兄さんを慕うあの感じ。可愛らしいけど、すごい執着」
何にせよ、まだしばらくはハスミンもココ村支部から離れられない。
その間に、ルシウスを見定めてみようと思っている。