体の動きと勘が戻ってきた証拠だ。敵の肩や足、目線から相手の攻撃を読んで、無駄な動きを失くしていく。
 ミノタウロスは自分の攻撃が空を切り続ける事に苛立ちを覚えているのか、大きな雄たけびを上げて大きく斧を振り被った。

(きた……!)

 アデルはほくそ笑むと、速度をもう一段階上げて相手の中に踏み込み、腕を折り畳んで下段斬りを放つ。
 狙いは違わず、アデルの大剣がミノタウロスの腿を一閃。それと同時にミノタウロスの体勢がぐらりと揺れて、そのまま両手を地面についた。ミノタウロスは何がおこったのかわからず、自分の足を見るが……そこには自分の足はない。それと同時に痛みを感じたのか、苦痛の叫びを上げていた。

「焦ったら終わりなんだよ、間抜けめ。召喚に応じた自分を怨みながら、肥しにでもなっとけ」

 アデルは口角を上げて憐れな魔物にそう伝えると、そのまま剣をミノタウロスに向けて振り下ろした。

「ガァァァー!」

 雄叫びと共に、ミノタウロスの姿が霞みとなって消えた。
 召喚魔法によって召喚される魔法がどこから来て、どの様な縛りを受けるのかは明らかになっていない。ただ、召喚された魔物は召喚士の命令に従って戦い、役目を終えると消えるだけである。

「……凄いですね、アデルさん。本当にあの化け物を一人で倒しちゃうなんて」

 カロンが腕から血を流しながら言った。
 どうやら二人もオークを無事討伐し終えた様だ。

「まあ、これでも銀等級の冒険者だしな。これくらいなら何とかなるさ」

 アデルは布で刃に付着した血を拭き取り、小さく息を吐く。

「お前らの方こそ、大丈夫か? オークは手ごわかっただろ」
「まあ、過去一で手ごわかったですけど……伊達に一年間、アデルさんに鍛えられてませんから」

 カロンは鞄の中から包帯を取り出して、止血しながら言う。
 ルーカスは弓で後援に徹し、ひらすらカロンが前衛で二体のオークを相手にしたらしい。オーク二体を同時に相手にできる戦士となると、冒険者で言うと青玉等級、パーティーで言えばDランクパーティー相当だろうか。ルーカスはともかく、カロンはなかなかに戦闘のセンスがある。あと何年間か戦って経験を積めば、さぞ優秀な戦士になるだろう。

「そうか。特訓が役に立った様で嬉しいよ」

 アデルはそう言ってから、教会の方を向いた。

「さて、新しい魔物を召喚される前に説得してしまおう。何回もミノタウロスの相手をするのは俺も御免だ」

 アデルの言葉に、ルーカスとカロンは「僕らも嫌ですよ」と同意した。