のしのしと地面に重みを加えながら、ゆっくりとオークとミノタウロスが歩み寄ってくる。
 ルーカスが先制で弓を放ってオークの歩みを止めて、カロンが接近戦で斬り掛かった。
 一方のアデルは、短剣を投げてミノタウロスの注意を引いた。ミノタウロスは斧を使うまでもなく、腕だけでそのナイフを弾き飛ばす。アデルは飛び上がって大剣を振り被り、そのまま力一杯振り下ろした。
 ミノタウロスは斧でその攻撃を難なく防ぐと、そのままアデルを弾き飛ばした。

(さすがにミノタウロス相手に力技じゃ勝てないか。魔法の援護……は、ないんだったな)

 無意識のうちに、強い魔物相手と戦う時に魔法の援護を頼ってしまっている自分が憎らしかった。
 パーティーでの戦いに慣れてしまっている証拠だ。頭の片隅にオルテガやフィーナの顔がチラついて、内心で苛立つ。
 この一年、彼らの事を思い出す事は少なくなっていたが、こういった時に唐突に思い出してしまうのだ。

(何やってんのかな、あいつら……大陸の方はもっと荒れてるみたいだけど)

 ぼんやりとそう考えていた時、巨大な斧の攻撃がアデルに振り下ろされて、はっとする。
 アデルは瞬時に攻撃の軌道を予測し、後ろに飛んで避けた。そのままミノタウロスの横に移動して、大剣を一閃。しかし、ミノタウロスもその攻撃を予期していたのか、難なく攻撃を防いだ。

(……余計な事を考えてる場合じゃないな)

 アデルは意識を目の前の敵に戻して、息を吐いた。
 ここヴェイユ島で暮らし始めて一年程が経過しているが、この一年、アデルは何かで苦戦を強いられた事も、闇討ちを食らった事を除けば、命の危険を感じた事もなかった。
 強敵との戦いは、アデルにとっては実に一年ぶりなのである。戦いの勘を取り戻すまでにもう暫く時間が必要そうだった。

(忘れてるなら、思い出せばいいだけさ)

 アデルはにやりと笑みを浮かべると、そのまま大剣を構えてミノタウロス相手に突っ込む。
 そのまま何号か剣と斧を打ち合わせているうちに、徐々に体の反応が戻ってきた。
 力の入れ方、避け方、タイミングのずらし方……感覚がどんどん戻ってきて、思わずアデルの口から笑みが漏れえう。
 彼はオルテガ達のパーティーに入る前はソロで冒険者ギルドから依頼を受けていた。その時は一人でミノタウロスやそれよりも強い魔物と戦っていたし、多勢の敵とも一人で戦っていた。
 パーティーで戦う事に慣れ、そして平和な島で暮らす事に慣れてしまったここ暫くの自分を捨てる気になれば、ミノタウロスと言えどもそれほど難しい相手なわけではない。

(いいぞ……体の動きが戻ってきた)

 アデルはミノタウロスの斧撃を剣を使って受けず、上体だけで避ける様になっいた。