アーシャとの逢瀬の翌日、ちょっとした事件が起こった。
 暴動である。暴動そのものは、ここ最近ではそれほど珍しいものではない。ロレンス王が健在だった頃は一度も起こった事がなかったのだが、国状が国状なだけに、民の不満は暴動として現れる様になっていたのだ。
 そして、その頻度も日に日に増えていく。最近では、王宮兵団の主な任務は賊の退治よりも暴動の鎮圧の方が多くなっているくらいだ。王宮兵団の人数も減り、アデル達は町を右往左往していつも喧嘩や暴動の鎮圧に尽力している。
 その日は珍しく、アデルはカロンとルーカスの三人組で城下町の見回りと警備の任務についていた。

(それにしても、ここがあの王都か。一年前に感動を覚えた町と同じ場所とは思えないな……)

 アデルは町を歩きながら、そんな感想を抱いた。
 一年前は平和で美しかった城下町も今や荒廃し、アデルもよく知る町の雰囲気になっていた。
 どこか殺伐としていて、町民達は常にイライラしている。喧嘩が勃発しても止める警備兵はいないし、町民達も止める者がいないのだ。アンゼルム大陸にある町ではよく見かけた光景でもあった。
 王宮兵団の任務も、町を歩いていてはそういった揉め事の仲裁を行ったり、窃盗犯を捕まえたりと、ひと昔前とは仕事の内容も大きく変わってきていた。
 以前よりもスリや盗難の数が増えたのは体感としても間違いなかった。グスタフが民に圧政を強いているから、皆が一斉に貧しくなってきているのだ。町内の店で強盗などが発生していないだけまだマシであるが、それも時間の問題の様に思えた。

「お、王宮兵団の兵士さん、大変です!」

 アデル達が町を歩いていると、ひとりの町民が彼らに駆け寄ってきた。

「どうしたんですか?」

 カロンが訊くと、町民が息絶え絶えに「ぼ、暴動が!」と訴えかけた。
 アデルとルーカスは顔を見合わせ、互いに顔を顰め合った。

「とりあえず、落ち着いて下さい」

 カロンはパニック状態に陥っている町民に深呼吸を促し、事情を訊く。

「は、はい、すみません……王都の西地区で暴動が起こったんですよ」
「西地区っていうと、ティクター伯爵の管轄か。あそこで暴動だと……? そいつは、()()()()()()()()()話だな」

 アデルがルーカスとカロンを見て言う。

「ああ、確かに変だね。あそこらの住人は穏健派だし、何より代表のティクター伯爵は流血を特に嫌う人だったはずだよ。それが暴動だなんて起こすわけがない」

 ルーカスもアデルの言葉に同意した。