「ちっ……糞ッ垂れ。いつも自分ばかり良い想いしやがって」
盗賊のギュントが、野営中のテントを遠くから眺めながら愚痴を吐き捨てた。それと同時に唾も地面に吐きつけている。
テントの中では、二人の男女が体を重ね合っている。夜の森は静かで、フィーナの喘ぎ声がずっと彼らの欲情を刺激していた。
「全くだ。一回くらいこっちにも回して欲しいものだな」
魔導師のイジウドがギュントの愚痴に同意した。
彼らがテントの中で眠れるのは、二人──というか主にオルテガ──が満足してからである。しかも、テントの中は男と女の臭いが充満しており、とてもではないが休む気分にはなれない。
最近では、イジウドとギュントがそのまま外で毛布に包まって眠る事が多くなっていた。男と女の体液が混じり合った臭いの空間で眠るよりは、その方が精神衛生上まだマシなのである。
以前まではこうした遠出をする依頼というのはそれほど多くなかったのだが、Sランクパーティーにもなると、遠出の依頼が増える。すると、こうしてテントで過ごす日も増えて、二人は外で眠る羽目になる回数が増えるのである。
「はぁ……」
「なんだね」
盗賊の溜め息に、魔導師が鬱陶し気に反応する。
「依頼内容の難易度は上がって、遠出も増えて、挙句にこうやって外で眠らされるってよ……何だかアデルがいた頃の方が全然良かったんじゃねえか? 俺ら」
「奇遇だね。実は、私もそう考えていたところだよ」
ギュントの言葉をまたしてもイジウドが肯定する。
Sランクパーティーに上がった事で、任務の難易度は明らかに上がった。
討伐依頼にせよ、要人の護衛依頼にしても、危険を伴う依頼は明らかに増えている。これまでAランクパーティーには回されなかった依頼を回されるからだ。
では、だからといってAランクパーティー時代より裕福になったかというと、そうではない。
当時はギルドの言うアデルボーナスがあった御蔭で、Aランクの依頼であってもSランク相当の報酬が支払われていた。
しかも、パーティーにはランカールの冒険者ギルドで最も優秀な銀等級冒険者・アデル=クラインがいた。
当時は深く考えていなかったのだが、アデルがいた頃はパーティーの負担や危険をいつも彼が担ってくれていた。だからこそ、ギュントもイジウドも、そしてフィーナも常に自分の力を存分に使えていたし、効率も良かったのである。
しかし、それがオルテガだけになると、そういうわけにもいかない。強い前衛が二人いるのと、一人になってしまうのではその戦力は全く異なる。オルテガは確かに強いが、そのオルテガと同じクラスの強さ──というよりおそらくオルテガより上なのではないかと今にしては思うのだが──を持つアデルがいるのといないのでは、雲泥の差である。
「アデルがいた頃はよかったよなぁ。テントだって皆で使えたし、あいつは皆が疲れてたら見張りを率先してやってくれた。俺達を休ませてくれてたんだ」
「全くだ。報酬も良かったし、仕事も楽だったとくれば……」
そこでギュントとイジウドは顔を見合わせ、苦い笑みを浮かべた。
「付く人間を間違えたんじゃねえか、俺達?」
「言うな。私達はもうアデルを殺してしまってるんだぞ。それはあまりにも虫が良いというものだ」
「まあな……それもそうだよな」
盗賊と魔導師は大きな溜め息を吐いて、背後から聞こえる女の喘ぎ声に舌打ちをした。
「なあ……オルテガの奴、俺達の事を裏切ったりしないよな?」
「……するはずがないだろう。俺達はパーティー結成当初から一緒にいたんだぞ? ここまで上り詰めて、裏切る等と」
そこで、ギュントとイジウドは言葉を詰まらせた。
仲間に闇討ちを仕掛ける人間だ。もしかすると、その矛先は自分にも向くのではないか?
二人はふと急に不安になったのだった。
「あるはずない。あるはずないさ……」
「ああ。あって堪るか」
不安が胸の中で広まっていく中、夜は更けていく。
彼らは案の定、その日も安眠できなかった。
盗賊のギュントが、野営中のテントを遠くから眺めながら愚痴を吐き捨てた。それと同時に唾も地面に吐きつけている。
テントの中では、二人の男女が体を重ね合っている。夜の森は静かで、フィーナの喘ぎ声がずっと彼らの欲情を刺激していた。
「全くだ。一回くらいこっちにも回して欲しいものだな」
魔導師のイジウドがギュントの愚痴に同意した。
彼らがテントの中で眠れるのは、二人──というか主にオルテガ──が満足してからである。しかも、テントの中は男と女の臭いが充満しており、とてもではないが休む気分にはなれない。
最近では、イジウドとギュントがそのまま外で毛布に包まって眠る事が多くなっていた。男と女の体液が混じり合った臭いの空間で眠るよりは、その方が精神衛生上まだマシなのである。
以前まではこうした遠出をする依頼というのはそれほど多くなかったのだが、Sランクパーティーにもなると、遠出の依頼が増える。すると、こうしてテントで過ごす日も増えて、二人は外で眠る羽目になる回数が増えるのである。
「はぁ……」
「なんだね」
盗賊の溜め息に、魔導師が鬱陶し気に反応する。
「依頼内容の難易度は上がって、遠出も増えて、挙句にこうやって外で眠らされるってよ……何だかアデルがいた頃の方が全然良かったんじゃねえか? 俺ら」
「奇遇だね。実は、私もそう考えていたところだよ」
ギュントの言葉をまたしてもイジウドが肯定する。
Sランクパーティーに上がった事で、任務の難易度は明らかに上がった。
討伐依頼にせよ、要人の護衛依頼にしても、危険を伴う依頼は明らかに増えている。これまでAランクパーティーには回されなかった依頼を回されるからだ。
では、だからといってAランクパーティー時代より裕福になったかというと、そうではない。
当時はギルドの言うアデルボーナスがあった御蔭で、Aランクの依頼であってもSランク相当の報酬が支払われていた。
しかも、パーティーにはランカールの冒険者ギルドで最も優秀な銀等級冒険者・アデル=クラインがいた。
当時は深く考えていなかったのだが、アデルがいた頃はパーティーの負担や危険をいつも彼が担ってくれていた。だからこそ、ギュントもイジウドも、そしてフィーナも常に自分の力を存分に使えていたし、効率も良かったのである。
しかし、それがオルテガだけになると、そういうわけにもいかない。強い前衛が二人いるのと、一人になってしまうのではその戦力は全く異なる。オルテガは確かに強いが、そのオルテガと同じクラスの強さ──というよりおそらくオルテガより上なのではないかと今にしては思うのだが──を持つアデルがいるのといないのでは、雲泥の差である。
「アデルがいた頃はよかったよなぁ。テントだって皆で使えたし、あいつは皆が疲れてたら見張りを率先してやってくれた。俺達を休ませてくれてたんだ」
「全くだ。報酬も良かったし、仕事も楽だったとくれば……」
そこでギュントとイジウドは顔を見合わせ、苦い笑みを浮かべた。
「付く人間を間違えたんじゃねえか、俺達?」
「言うな。私達はもうアデルを殺してしまってるんだぞ。それはあまりにも虫が良いというものだ」
「まあな……それもそうだよな」
盗賊と魔導師は大きな溜め息を吐いて、背後から聞こえる女の喘ぎ声に舌打ちをした。
「なあ……オルテガの奴、俺達の事を裏切ったりしないよな?」
「……するはずがないだろう。俺達はパーティー結成当初から一緒にいたんだぞ? ここまで上り詰めて、裏切る等と」
そこで、ギュントとイジウドは言葉を詰まらせた。
仲間に闇討ちを仕掛ける人間だ。もしかすると、その矛先は自分にも向くのではないか?
二人はふと急に不安になったのだった。
「あるはずない。あるはずないさ……」
「ああ。あって堪るか」
不安が胸の中で広まっていく中、夜は更けていく。
彼らは案の定、その日も安眠できなかった。